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詩歌句誌面

読解なくして論評あらず。

今週の「朝日歌壇」より(2018/8/26掲載・そのⅠ)                      斉藤に大石・福井!早大の三羽鴉の実力の程! 

〇  九条がほんとに邪魔になるだろう高価な「イージス・アショア」を買えば  (千葉市)佐々俊男

 「日本国政府は、昨年十二月に<陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)>を二基、導入することを決定し、その後、具体的な構成品の導入の検討をも進めていて、この七月末には、構成品中の要とも言うべき<レーダー>を<MDA(米国ミサイル防衛庁)>提案、<ロッキード・マーチン社>製造の<LMSSR>にする事に決定した」との事である。
 「「イージス・アショア」導入に要する費用は、四千五百億円ともそれ以上とも言われていて、青天井、底無し沼の如き様相を呈しているのである。
 また、その二基の配備基地に就いても、「安倍政権及び防衛相幹部の胸中には、安倍総理の選挙区の山口県内の自衛隊駐屯地、及び、菅官房長官の出生地の秋田県内の自衛隊駐屯地に設置する」との想定が、既に為されているのであるが、両県共に地域住民の反対運動が展開されているのであり、特に秋田県に於いては、殿様知事とのニックネームを持つ佐竹敬久知事までが、去る六月二十一日に、「地上配備型迎撃システム<イージス・アショア>の陸上自衛隊新屋演習場(秋田市)への配備に関連した政府の防衛政策を、『ちぐはぐでデリカシーがない。強引で不愉快だ』」などと批判したので、慌てふためいた安倍総理は、自らの代貸し格の菅義偉官房長官を現地に派遣して、陸上配備型迎撃ミサイルシステム<イージス・アショア>を秋田県に配置する事の意義とその必要性とに就いて、地元住民らに理解を求める為の講演会を開くなどのテイタラクなのであります。
 そうした雑事はともかくとしても、地上配備型迎撃システム<イージス・アショア>の導入に就いては、その導入時に、「五千億円余りの現金をポンとアメリカ人の懐に突き付ければそれでお終い」という訳では無くて、「イージス・アショアの導入=日米安保体制の恒久的な存続」という方程式になっているので、この問題のややこしさは、将棋界のニュー・プリンスこと、藤井聡太七段でさえも、到底解くことが出来ない詰将棋的な様相を呈しているのである。
 永田選の首席。

     安倍三選!即、邪魔者扱ひされむや菅義偉氏!超田舎者!  鳥羽散歩
     知り過ぎた者は即ち除かれむ!菅義偉氏閣内横滑り!
     邪魔者は除け!とばかりに強引な憲法改悪法案可決!


〇  空しきは核禁条約に触れもせぬ広島忌での首相のあいさつ  (三原市)岡田独甫

 曰く、「一発の原子爆弾が、街を一瞬にして破壊し、十数万ともいわれる貴い命を奪いました。あれから73年、一命を取りとめた方々にも、筆舌に尽くし難い苦難の日々をもたらしました。若者の夢や明るい未来が容赦なく奪われました。原子爆弾の犠牲となられた数多くの方々のみ霊に対し、謹んで、哀悼の誠をささげます。そして、今なお被爆の後遺症に苦しまれている方々に、心からお見舞いを申し上げます。広島、長崎の悲劇を再び繰り返してはならない。唯一の戦争被爆国として、<核兵器のない世界>の実現に向けて、粘り強く努力を重ねていくこと。それは、わが国の使命です。近年、核軍縮の進め方について、各国の考え方の違いが顕在化しています。真に<核兵器のない世界>を実現するためには、被爆の悲惨な実相の正確な理解を出発点として、核兵器国と非核兵器国双方の協力を得ることが必要です。わが国は、非核三原則を堅持しつつ、粘り強く双方の橋渡しに努め、国際社会の取り組みを主導していく決意です。その具体的な取り組みとして昨年、核軍縮に関する<賢人会議>を、ここ広島で開催しました。<賢人会議>を通じて有識者の知見も得ながら、核拡散防止条約(NPT)発効50周年となる2020年のNPT運用検討会議が意義あるものとなるよう、積極的に貢献してまいります。また、その非人道性を、後の世に、また世界に、伝え続ける務めがわれわれにはあります。若い世代が、被爆者の方々から伝えられた被爆体験を語り継ぐ。政府として、そうした取り組みをしっかりと推し進めてまいります。被爆者の方々への援護施策については、保健、医療、福祉にわたる支援の必要性をしっかりと受け止め、被爆者の方々に寄り添いながら、今後とも、総合的に推進してまいります。特に、原爆症の認定について、引き続き、一日も早く結果をお知らせできるよう、できる限り迅速な審査を行ってまいります。結びに、永遠の平和が祈られ続けている、ここ広島市において、<核兵器のない世界>と恒久平和の実現に向けて力を尽くすことをお誓い申し上げます。原子爆弾の犠牲となられた方々のご冥福と、ご遺族、被爆者の皆さま、ならびに参列者、広島市民の皆さまのご平安を祈念いたしまして、私の挨拶と致します。」とか!

 「核兵器のない世界」を三回に亘って強調したのは、シンガポールで行われた「米朝賢人会談」こそが「核兵器のない世界」を実現する為の第一歩だと言いたかったのでありましょうか?
 また、「真に<核兵器のない世界>を実現するためには、被爆の悲惨な実相の正確な理解を出発点として、核兵器国と非核兵器国双方の協力を得ることが必要です。わが国は、非核三原則を堅持しつつ、粘り強く双方の橋渡しに努め、国際社会の取り組みを主導していく決意です」などと口にするに及んでは、自らの品格・頭脳の程度の悪さを満天下に公表したようなものではありませんか?
 永田選の次席。

     被爆国の首相にしてのこの言辞!核兵器国の三百代言!  鳥羽散歩


〇  100回が百年ならず開催のかなわぬ年を忘るるなかれ  (柏市)菅谷修

 1940年代は高校野球の歴史にとっても暗雲に覆われた時代だった。
 太平洋戦争が始まった1941年には地方大会のみが実施され、全国大会は開催されなかった。
 そして、翌年からの4年間は大会そのものが戦争の為に中止になったのである。
 私たち高校野球ファンは、決してこうした事実を忘れてはなりません!
 第25回大会(1939)に出場して優勝までの全5試合で完封勝ちしたのは、海草中学の嶋清一投手である。
 彼は、この大会の準決勝と決勝に於いて二試合連続のノーヒットノーランを達成したのであるが、1940年、明治大学に進学した後、学徒出陣で太平洋戦争に出征して、ベトナム沖で戦死し帰らぬ人となった。
 また、「日本のプロ野球は、沢村が投げ、景浦が打って始まった」とは、よく言われている事である。
 東京巨人の沢村栄治(京都商出身)が速球を投じ、大阪タイガースの景浦将(松山商出身)が持ち前の豪快なスイングで応戦した。
 しかし、プロ野球草創期のヒーローは、二人ともに軍隊に召集され戦死する。
 沢村が27歳、景浦が29歳の若さだった。
 その景浦将が甲子園に名を残すのは第18回大会(1932)である。
 彼は、松山商業の6番・三塁手で、救援投手も担ったが決勝で惜敗した。
 立教大学を経てプロ野球入りした景浦は、首位打者や打点王、最優秀防御率のタイトルを手にしたが、1945年5月、フィリピンで戦死した。
 一方の沢村栄治が甲子園に登場したのは第20回大会(1934)である。
 彼は、京都商業のエースとして甲子園のマウンドを踏んだが、1回戦で鳥取一中に敗れて姿を消した。
 プロ野球の巨人に入団した後の沢村は、持ち前の剛速球を駆使して伝説的な大活躍をしたが、手榴弾投擲兵として出征して、太平洋戦争で戦死した。
 折りも折り、今年の夏の甲子園は、ド田舎・秋田の金足農業高校の決勝戦進出と、そのエースピッチャー吉田輝星投手ブームで沸いたのであるが、今日のこうした隆盛の陰には、太平洋戦争の犠牲として亡くなった、多くの名選手が存在した事も、私たち高校野球ファンは、決して、決して忘れてはなりません!
 永田選の三席。

     斉藤に大石・福井!早大の三羽鴉の実力の程!  鳥羽散歩

   
〇  どうせいつも俺が悪いと怒りだすわたしが先に怒ってたのに  (佐渡市)藍原秋子

 夫婦喧嘩は犬は勿論のこと、ハクビシンさえも喰いません!
 永田選の四席。

     「悪いのは私なのよ!」と拗ねてみせ、抱かれて泣いた藍原秋子!  鳥羽散歩


〇  ほどかれた舟が幾度も川べりにぶつかるようなさよならでした  (西東京市)本条恵

 「ほどかれた舟が幾度も川べりにぶつかる(ような)」という、台風時のダイナミックな舟溜まりの風景の実写は、「さよなら模様」の直喩としての役割りを果たしていて充分である! 
 永田選の五席。

     ぶつかって抱かれて泣いて別れたの!私と貴方!牝馬 と牡馬と!  鳥羽散歩


〇  おおきくはしなくていいと祖父はいい父もまもったちいさな書店  (東京都)高橋千絵

 その「ちいさな書店」の経営が行き詰っての閉店が社会問題となっているのは、昨今の我が国の現状である!
 私の幼年時の我が故里、人口二万人余りの北東北の田舎町には、書籍販売の専門店が三軒も在ったのですが、今となっては、それも昔物語であり、本と名の付くものは、文庫版の本さえも買う事が出来ません!
 永田選の七席。

     大きくはしなくていいと思ったが私の代で潰れた書店  鳥羽散歩

 
〇  たずねれば必ず死にたくないと答う何せ初めてのことだからと母  (佐世保市)近藤福代

 斯くまでに世知辛いこの世の中でありますから、ご家族の誰かに二度も三度も死なれたら、残された家族の方々の生活が行き詰ってしまいますよ!
 永田選の八席。

     死にたくない死にたくないと言うけれど盆に帰った幽霊なのだ  鳥羽散歩


〇  苦しまずに死にましたかと問ひしひとも逝きて戦後は幾たびの夏  (生駒市)辻岡瑛雄

  彼の「ひと」は、自らは「苦しまず」に死んだのでありましょうか?
 永田選の九席。

     苦しまずに死んで行ったか行かぬかは死んだ者でなければ分からぬ  鳥羽散歩


〇  反り返り口がへの字の大臣の物真似すれば座は盛り上がる  (三郷市)木村義煕

 あの方が、大臣席に反り返って座り、口をへの字に曲げて「下々の皆さんよ、日本ほど安全で治安の良い国はない。ブサイクな人でも美人でも、夜中に平気で歩けるのだから、日本ていう国はみぞゆうの国なんですよ!」などと言ったら、笑点の大喜利メンバーの三遊亭円楽師匠に嫉妬されましょう。
 永田選の末席。

     みぞゆうの繁栄ぶりを誇るのも北朝鮮のお蔭なのです  鳥羽散歩
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今週の「朝日歌壇」より(2018/8/26掲載・そのⅡ) 仔を連れた月の輪熊が出没し阿仁のマタギは昨今多忙!  夏草を刈つて戻れば桃一顆!産毛生えたる桃ぞ愛しも!

〇  夏草を刈り終え戻れば卓上に冷え冷えとして桃ひとつあり  (安中市)鬼形輝雄

 果物畑の夏草刈りは、暑さも暑し、藪蚊に喰われるしで、なかなか辛い仕事である。
 作中の「桃ひとつ」は、そうした辛い仕事を厭わないご亭主殿に対する、奥様のせめてもの志の「桃」でありましょうか!
 ところで、短歌の作中に「桃」が登場したりすると、斯く申す私・鳥羽散歩などは、在らぬ妄想に誘われるのでありますが、本作の作者・鬼形輝雄さんに於かれましては如何にお思いでありましょうか?
 馬場選の四席。

     夏草を刈つて戻れば桃一顆!産毛生えたる桃ぞ愛しも!  鳥羽散歩


〇  子を産んだ二頭の雌牛死んだとふ猛暑の昼の農芸高校  (東久留米市)関沢由紀子

 作中の「農芸高校」とは、東京都西多摩郡瑞穂町石畑に在る「東京都立瑞穂農芸高等学校」でありましょう。
 同校には、「畜産科学科 ・酪農類型コース」が在り、乳牛や肉牛の飼育・交配などの実習授業なども行われるものと判断されますから、作中の「子を産んだ二頭の雌牛死んだとふ」という、風聞・伝承句とも合致しましょう。
 また、本作の作者がお住いの都下東久留米市と件の農芸高校が在る都下瑞穂町とは至近距離に在るので、「(農芸高校で)子を産んだ二頭の雌牛」が「死んだ」などという、新聞やテレビなどの一般的なマスメディアで報道されないようなローカルなニュースが、風の便りとして作者の耳元まで届くような場面も考えられましょう。
 馬場選の五席。

     仔を連れた月の輪熊が出没し阿仁のマタギは昨今多忙!  鳥羽散歩

 
〇  不知火の消えては燃ゆる夜のうみ伴天連ばやしを遠近に聞く  (相模原市)松並善光

 不知火の燃える海・八代海や有明海沿岸の漁村の「お祭り」乃至は「盆踊り」の光景に取材した一首でありましょうか?
 本作の作者の松並善光さんの故里は大分県であり、今年の盂蘭盆の季節に作者は帰省したとのことであります。
 「不知火」とは、「八代海や有明海で旧暦八月一日前後に現れる蜃気楼の一種」であり、その不知火の燃える海の海端で行われる盆踊りのお囃子が「伴天連ばやし」なのでありましょう。
 馬場選の七席。

     不知火の消えては燃ゆる我がこころ伴天連囃子の踊り子愛し  鳥羽散歩


〇  落蟬の捥げた脚まで運び去る「もったいない」が合言葉の蟻  (西海市)前田一揆

 「『もったいない』が合言葉の蟻」との、下の二句が魅力の佳作である。
 馬場選の八席。

     ジュゴンの棲む辺野古の海を荒らすとは勿体ないこと安倍ちやん退陣!  鳥羽散歩

 
〇  空中へ海面突き抜け狩りをする浪人鯵は鳥をも食す  (和歌山市)吉田孝

 「ロウニンアジ(浪人鯵、学名 Caranx ignobilis )」とは、「スズキ目アジ科に属する海水魚の一種。インド太平洋の熱帯・亜熱帯海域に分布する大型肉食魚である。アジ類の最大種でもあり、釣りの対象として人気が高い」とのこと。
 「空中へ海面突き抜け狩りをする浪人鯵」、「鳥をも食す」「浪人鯵」の描写がダイナミックで素晴らしい一首である。
 馬場選の九席。

     懐中へ指を差し入れ財布掏るスリの名人仕立て屋銀二  鳥羽散歩


〇  枯草のようなカマキリの脱いだ皮カマキリの形して庭にあり  (仙台市)小室寿子

 よく見かける晩夏の光景ではありますが、「カマキリの脱いだ皮」が「カマキリの形して庭にあり」とは、なかなか鋭く細やかな観察眼である。
 馬場選の末席。

     カマキリの如き生きざま!ステテコを脱いだ形に捨て措き入浴!  鳥羽散歩

今週の「朝日歌壇」より(2018/8/26掲載・そのⅤ) ~松田短歌姉妹特集~

〇  二十歳から始めることとやめること考えている猫をなでつつ  (富山市)松田梨子
〇  「やくそく」って素敵な響き白桃の優しさ晩柑の爽やかさ  (富山市)松田わこ

 朝日歌壇名物の松田短歌姉妹の作品が久々に登場しました。
 松田梨子作は、馬場あき子選の首席・永田和弘選の六席、佐佐木幸綱選の次席入選作であり、松田わこ作は、馬場あき子選の四席、高野公彦選の末席入選作である。
 ところで、今から遡ること八年前の六月に、富山市在住の松田短歌姉妹と、そのご両親のご消息に関わる次のようなニュースが朝日新聞で報道されたことは、記憶力抜群の本ブログの読者諸氏の事でありますから、当然ご存じでありましょう。
 その件を報道した朝日新聞そのものは、いくら物持ちの宜しい私とても、当然保存して居りませんので、インターネットから検出された「朝日新聞・DIGITAL」の2011年6月7日11時18分付けの記事を拠りますと、「歌詠み一家の四重奏・日常の歌集を出版」というタイトルの記事の内容は以下の通りである。

 無垢の感性を、短歌の31音定型にきちんと収めて朝日歌壇に入選多数。その投稿を選者も楽しみに待つ富山市在住、松田梨子(12歳)、わこ(9歳)さん姉妹と母由紀子(40歳)、父徹(46歳)さんの合同歌集が出来た。『たんかでさんぽ』(角川書店、2100円)。心なごむ歌詠み一家の四重奏だ。
 地元紙の投稿文芸欄や朝日歌壇の入選作品ほか、2007~10年作の130首から成る“梨子・わこの章”と、両親の160余首所収の“お父さん・お母さんの章”の2部構成。
 〈五・七・五くつで数えて立ち止まるママとこのごろたん歌でさん歩〉(梨子作・2007年)。
 〈パパのいすげつかすいもくきんようびからっぽたいくつどようびはまだ〉(わこ作・同)。
 「当時、夫は単身赴任中で、私は密室みたいなマンションでの孤独な子育てが不安でならなかった」と由紀子さん。散歩に出かけると、鬱が晴れたという。
 母娘は、そのぶらぶら歩きの中に短歌を作る楽しみを発見する。指を折る代わりに5歩、7歩と歩数を頼りに5音7音の言葉を探す。道すがらの見聞を57577の形に整えていく。
 かねて短歌愛好者だった母との遊びを喜び、習慣として歌を作るに至った2人の成長を跡づける作。
 〈マンボウとひつじがチューする雲がいてそのすき間からひかる青空〉(わこ作・2010年)。
 〈半分は信じて半分笑ってる私12歳クリスマス・イブ〉(梨子作・同)。
 〈晩秋をまつ毛の先にのせている子の5枚切に厚くジャムぬる〉(由紀子作、2010年)。
 〈両腕にぶらさがる子とたしなめる妻がいるかなノブを回せば〉(徹作、同)。
 温かな親の眼差し。
今春、梨子さんは中学生に、わこさんは小学4年生になった。(河合真帆)

 その後、松田短歌姉妹はどのような短歌を詠み、どのように成長して行ったのでありましょうか?
 そもそもの話をすれば、松田短歌姉妹の短歌が入選作として朝日歌壇に登場したのは、2009年4月26日のことであり、その内容は次のようなものであった。
2009/4/26
   咲こうかなそれとも明日咲こうかな塾の帰りに桜の会話  松田梨子(11歳)
   始業式今日から私三年生カッパ卒業オレンジのかさ  松田わこ(8歳)

 その入選が一つの切っ掛けとなり、その後の松田短歌姉妹は、続々と朝日歌壇の入選作を果たし、毎週月曜日の朝刊に載せられた姉妹の作品は、私たち短歌ファンから大いなる期待を寄せられ、満天下の話題となるのであるが、以下、それらの入選作の中からインターネットで検出する事が出来た作品、及び、私の所蔵するスクラップブックから抜き出した作品と掲載年月日とを記すと以下の通りとなる。

2009/6/14
   逃げ出して三日目の朝見つかったカメ吉聞かせて冒険日記  松田梨子 
   雨の子は円を書くのが得意だねポツポツポツリ学校の池  松田わこ 
2010/9/6
   泣き虫でけっこうがんこで甘えん坊はねる音符のような妹  松田梨子
   ねえちゃんは今日から合宿メロンパン2こ食べちゃったなのにさみしい  松田わこ
2010/10/26
   大好きな水着しまって気がついた中学校にプールないんだ  松田梨子
2010/12/6
   トンネルが多い列車と聞いたから夏目漱石誘って行った  松田梨子
2011/1/10
   きっさ店ママのコーヒー飲んでみた苦くて口がガ行になった  松田わこ
2011/2/28
   妹の笑顔の寝顔かわいくて歯磨き中のパパまで呼んだ  松田梨子
2011/4/10
   炊き出しを笑顔で手伝う中学生青いジャージに粉雪が降る  松田梨子
   地震の中で赤ちゃん産んだお母さん温かいシチューとどけてあげたい  松田わこ
2011/8/22
   玄関でクルッと回ってスカートをふわっとさせてねえちゃんおでかけ  松田わこ
2011/9/26
   今すぐにおとなになりたい妹とさなぎのままでいたい私と  松田梨子
2011/10/3
   汗よりも涙はゆっくり落ちてゆく閉会式が終わった砂に  松田梨子
   引っぱって引っぱってでも引っぱられ綱も決心できないみたい  松田わこ
2011/12/19
   黒と紺迷って決めた新しいコートは雪に合いそうな紺  松田梨子
   初雪を私と見ていた指たちが窓にバッハのインベンション弾く  松田わこ
2012/1/9
   捨てゼリフ残し飛び出すねえちゃんはけれどもドアを優しく閉める  松田わこ

2012/2/20
   今日はもう車の発掘あきらめてリュックで雪のスーパーへ行く  松田由紀子
   大雪の朝軍手はめ走ってく一年六組除雪当番  松田梨子
   この雪を降らせる雲が弾いているトルコ行進曲が聞こえる  松田わこ
2012/6/11
   スリッパにマットにカバーにプーさんがいてトイレでも一人になれない  松田 梨子
   すごい虹出てるよしかも二重だよ勉強してる場合じゃないよ  松田わこ
2012/6/18
   モーツァルトも5月の空がきっと好きソナタ12番を弾きながら思う  松田わこ
2012/9/9
   初のソロ「恋とはどんなものかしら恋の苦手な私が歌う  松田梨子
   青じそのおいしさに気づいた私こうして人は大人になるんだ  松田わこ
2013/4/22
   なでた後かわいくなってまたなでる北野天満宮の牛の背  松田わこ
2013/5/2
   ちんどん屋さんしゃがんでコーラ飲んだ後また鳴らし出す桜の下で  松田わこ
2013/11/20
   泣き方は体が覚えていたけれど泣きやみ方を思い出せない   松田梨子
   冬物のパジャマはそっと子供らを包んでじっとおしゃべりを聞く  松田由紀子
2014/7/6
   壮行会十八人の合唱部が千人にむけ歌う応援歌  松田わこ 
2014/7/21 
   男子たち「そっくりな人見た」と言うねえちゃんだろうな一〇〇バーセント  松田わこ
2015/3/16
   友チョコをパクパク食べるねえちゃんは質問禁止のオーラを放つ  松田わこ
2015/5/4
   新クラスグルグル二周視回してゆっくり座るゆ二年九組  松田わこ
2015/5/11
   決断ができない私にグッドバイ二十センチの髪と一緒に  松田梨子
   私たち先輩だねと盛り上がる入学式の受付係  松田わこ
2015/5/18
   後輩が見学に来て音楽室優しいエメラルド色になる  松田わこ
2015/5/25
   家庭科も音楽もない時間割高二は風に吹かれる季節  松田梨子
   金曜日初めての約束をするできたてほやほやの友達と  松田わこ
2015/6/1
   十六歳子供を演じてくれていた優しい大人セロリのような  松田由紀子
2015/6/8
   衣更今から私風になる   松田わこ(長谷川櫂選)
   夏のミニコンサートに向け合唱部慣れないジャズのパート練習  松田わこ
2015/6/14
   ママとパパ私でガヤガヤねえちゃんの不器用すぎる恋を見守る  松田わこ
2015/6/22
   高いシのフラットがうまく歌えたら伝えようって決めてる気持ち  松田梨子
   眠いけどやりたいことが目白押し寝てる場合じゃないテスト明け  松田わこ
2015/6/29
   お祭りのお化け屋敷のお化けさんペットボトルを二本買ってた  松田わこ
2015/7/6
   決めている十四本のローソクを今年はしっとり吹き消すことを  松田わこ
2015/7/12
   あじさいも傘も天気予報も好き雨の季節に生まれた私  松田わこ
2015/7/20
   物知りでいつも笑ってる人にさえ夕暮れのような瞬間がある  松田梨子
   ビタミンCたっぷり摂ってジョギングも始めてマンガの恋は卒業  松田わこ
2015/8/3
   へこんじゃう時もあるけど大声で湯舟につかり歌う幸せ  松田梨子
   恋してるねえちゃんはまるで熱帯魚うろこキラキラ光らせ泳ぐ  松田わこ
2015/8/16
   偶然を待っていたのに図書室でまさか日焼けした君に会うとは  松田わこ
2015/9/7
   大粒のぶどうを食べている時にヒミツを一つ話してしまう  松田わこ
2015/9/13
   B型の私が冷めている次女の私を今日もつつき始める  松田わこ
2015/9/28
   青春のかけらキラキラ舞っている体育祭という時空には  松田梨子
   いつか店を持つため毎朝修業中卵三個で焼く卵焼き  松田わこ
2015/9/21
   ウソつきは大人の始まります寿しの淡いピンクが意地悪を言う  松田梨子
   宿題が全部終わって寝転んでねえちゃんの恋横目で見てる  松田わこ
2015/10/5
   あの人が優しい顔で立っている風にゆれてる麦の穂みたい  松田梨子
2015/10/12
   後悔をよく噛んで一つ食べましたカステラ色の月を見ながら  松田わこ
2015/10/19
   風かなと思うくらいにさり気なく私の秋にだれかがさわる  松田梨子
   新しい靴はビロード誰がなんと言おうが私大人に向かう  松田わこ
2015/10/26
   高二って大人のようで子供です君が無理して頼むコーヒー  松田梨子
   ねえちゃんの大事な人が家に来るそうじ買い物緊張笑顔  松田わこ
2015/11/2
   夕焼けを二人で全部分け合ったテストが近い日の帰り道  松田梨子
2015/11/8
   夕焼けの色のハートを持つ人と歩けば秋が深まっていく  松田梨子
   話せた日すれ違った日見かけた日なんでもなかった十四歳の日々  松田わこ
2015/11/16
   言いようのない気持ちさえ持つ私名前はいたってシンプルだけど  松田わこ
2015/11/23
   今日はスマホお休みにして初めての松本清張ゆっくりめくる  松田梨子
   何倍もかっこよくなった気がする連休上げに見かけたあの子  松田わこ
2015/12/7
   マフラーも手袋も編めないけれどあったかい冬約束します  松田梨子
2015/12/13
   甘酸っぱいカシスのムース片思いもいいかもよってとろけていった  松田わこ
2015/12/21
   あれこれとママが余計な気を回す私を打たれ弱いと決めて  松田梨子
2016/1/11
   今のまま進展も発展もせず冬を過ごすという選択肢  松田梨子
   最近の私をなぜかひきつける明るいだけじゃないモーツァルト  松田わこ  
2016/1/18
   恋人になるといろいろあるんだねホットアップルパイ食べて聞いてる  松田わこ
2016/1/25
   ほっといてほしい気持ちを意外にも一番分かってくれるのはパパ  松田わこ
2016/2/8
   オペレッタ「こうもり」を観て初笑い明日から本格的に雪  松田わこ
2016/2/14
   朝早くパパとお出かけ大雪でまあるくなった車掘り出し  松田わこ
2016/3/7
   三割の味方七割の敵だよとガラスのような目の君が言う  松田梨子
2016/3/28
   クラス替え近づいてきておそろいのピンクのポーチ友達と買う  松田わこ
2016/5/2
   手作りのアップルパイは父からの半日がかりの進級祝い  松田梨子
2016/5/9
   うちのパパ手品が得意お料理もまあまあ得意怒るの苦手  松田わこ
2016/5/16
   新しい靴もクラスも教科書ももう新しくなくなる五月  松田由紀子
   靴ずれの春の記憶がよみがえる恋に恋していたんだ私  松田梨子
2016/5/23
   スムーズに進む遠足のバーベキュー女子力の高い五人の男子  松田梨子
   ゴールデンウィークパパが数学を強化しようと渋めに言った  松田わこ
2016/6/12
   撫牛をなでているのに撫牛になでられている気持ちになった  松田わこ
2016/6/27
   ねえちゃんが大学生になる話聞くたび心の奥がさみしい  松田わこ
2016/7/4
   若い頃きっとゆれてたはずだけど母は私を理解できない  松田梨子
2016/7/11
   休憩にベートーベンの「熱情」を弾いてスッキリ化学に戻る  松田わこ
   じゅうたんに寝転びここは草原と話す妹今日十五歳  松田梨子
2016/7/25
   輪になって歌うコーラス部真ん中で首を振る一台の扇風機  松田梨子
   テスト中部活は休み眠ってる音楽室を起こさず帰る  松田わこ
2016/8/1
   妹が長芋シャリシャリすりおろし作ってくれたスタミナ料理  松田梨子
   セミの声ななめに浴びて歩いてく進路懇談会は二時から  松田わこ
2016/8/8
   しょうがとかみょうがの味がわかる頃楽しい恋の裏側を知る  松田梨子
   たなばたを揺らしそれから改札を通り抜けてく駅前の風  松田由紀子
2016/9/26
   高校の見学会で初めての食堂初めてのカツカレー  松田わこ
2016/10/3
   体育祭子供みたいに日焼けしたほんとの大人になっちゃう前に  松田梨子
2016/10/10
   ゆるすこと教えてくれた夏でした晴れのち雷雨夕方に虹  松田梨子
   半袖のセーラー服はもう今日でおしまいさよなら中3の夏  松田わこ
2016/10/17
   そそっかしい母と慎重すぎる父決定権はほぼ母にある  松田梨子
    高三のねえちゃんせっせとつるしてる五人の笑ったてるてる坊主  松田わこ
2016/10/31
   宿題が母が未来が目覚ましが順に私をゆさぶり起こす  松田梨子
   約束の時間より早く帰ります心配性の母の子として  松田わこ
2016/11/7
   先生の机の上の湿度計たまに見ながら進路の話  松田梨子
   コンクールきれいな羽を持つ小鳥さえずっている気分で歌う  松田わこ
2016/11/13
   押して引くこれが大事とアドバイスくれたのは幼馴染の男子  松田わこ
2016/11/21
   初めての選挙で知ったこと投票用紙はえんぴつで書く  松田梨子
2016/12/5
   大学は都会もいいなでも私雪景色が好き巣立ちの準備  松田梨子
   冬用のセーラー服に着替えた日風も私もキリッとしてる  松田わこ   
2016/12/11
   朝食にりんご夕食後にみかんセンター試験まで二か月を切る  松田梨子
2016/12/26
   へこんでも大学芋でよみがえる妹は強いそしてしなやか  松田梨子
2017/1/9
   受験生二人同時に顔を上げ初雪を見るリビングの窓  松田由紀子
   緊張の三者面談先生と私とママの正三角形  松田わこ
2017/1/16
   受験生の妹眠たそうな九時ソプラノで大きなあくびする  松田梨子
2017/1/23
   今までにないほど深く母と話す受験へ向かう新幹線で  松田梨子
2017/2/6
   試される私じゃなくて今までの私を試すセンター試験  松田梨子 
   白い息吐いて笑顔で手を振ってねえちゃんセンター試験へ向かう  松田わこ
2017/2/12
   教室で未来の話ばかりして過ごす一月クリスタル色  松田わこ
2017/2/20
   四国から来たという子と会話する緊張みなぎる試験会場  松田梨子 
   給食で初めて食べたまめぶ汁人生がまた楽しみになる  松田わこ
2017/2/27
   友達が受験に出かけうす味のスープみたいな今日の教室  松田梨子
2017/3/6
   リビングで私の両目が受け取った画面から届く不合格通知  松田梨子 
   ぼたん雪のち晴れ時々ぼたん雪最後の模試の結果が届く  松田わこ
2017/3/13
   赤本と卒業式の案内がリュックで隣り合ってる二月  松田梨子 
2017/3/20
   もんじゃ焼きたこ焼きそれともますの寿司考えている四月のランチ  松田梨子
2017/3/27
   電車バス乗り継いで行く二次試験無口な父と並んでゆられ  松田梨子
   鍵盤も楽譜も今は眠ってる受験の私見守るように  松田わこ
2017/4/3
   受験生の母を卒業した夜は一杯のビールでもう眠い  松田由紀子
2017/4/9
   大学生になる実感がわかなくてゆるいパーマをかけてみました  松田梨子
   中庭のロープが解かれ心臓と一緒にさがす受験番号  松田わこ
2017/4/17
   合格の発表の日の約束のショートケーキのいちごが甘い  松田わこ
2017/4/24
   シャーロック・ホームズみたいな先生に出会って過ごしたい四年間  松田梨子
   半分は中三半分は高一まぶしい原宿歩く春休み  松田わこ
2017/5/1 
   サークルの勧誘のビラもらうたび私を包む大学生感  松田梨子
2017/5/7
   制服が届いて夜のファッションショー家のすみからすみまで歩く  松田わこ
2017/5/15
   妹が私と同じ制服を着ている不思議新しい春  松田梨子
   速すぎるくらい元気に動いてる高校生の私の時計  松田わこ
2017/5/22
   球拾いも麦茶作りも楽しくてハンドボール部マネージャーの日々  松田わこ
2017/6/5
   母の日にプレゼントするクマさんは帰りの遅い家族のかわり  松田わこ
2017/6/11
   家族さえ私を泣かないタイプだと思ってるみたいもう長いこと  松田梨子
2017/6/19
   今ここで泣いちゃダメって思う時人って少しずつ強くなる  松田わこ
2017/6/26
   反対をしてから賛成する母と賛成しすぎて怒られる父  松田梨子
2017/7/17
   最近は一人の時間増えてきて夕焼け夕暮れ楽しんでいる  松田由紀子
   アルバイト先で笑顔をほめられてレジ打ちの指たちまで笑顔  松田梨子
   水色のガウチョパンツをひるがえしねえちゃん大人をまとって行った  松田わこ
2017/7/24
   ねえちゃんが初めてもらったバイト代私の貝のイヤリングになる  松田わこ
2017/7/31
   駅舎にはいつも季節の風が吹く今朝は七夕飾りをゆらし  松田由紀子
   妹を見ながら思う高校の頃は眠かった魔法みたいに  松田梨子
   先輩には先輩の悩み私には私の悩みレモンの季節  松田わこ
2017/8/7
   妹は私と同じ制服をはるかにうまく着こなしている  松田梨子
2017/8/14
   初めての林業体験ポタポタと流れる汗と若い木の匂い  松田梨子
   先輩に教えてもらった数学がズバリ出て期末テストが終わる  松田わこ
2017/8/21
   大学生実は忙しいアルバイトレポートテスト身だしなみ恋  松田梨子
2017/9/4 
   妹と最近本気でけんかした恋愛観がまるで違って  松田梨子
   心配性の母も大学一年の娘の母に慣れてきた夏    同
2017/9/18
   これからはドライに生きると妹が言い出し花火がドーンと上がる  松田梨子
   偶然に目が合ったとき人間でよかったと思う鳥とかじゃなく  松田わこ
2017/9/25
   夏休みの課題ようやく出し終えて私も空も青くて軽い  松田わこ
2017/10/2
   ショーケースの紫芋のモンブランどっしり秋の上座に座る  松田由紀子 
   妹の「行ってきます」と「ただいま」を今日も聞く九月の夏休み  松田梨子
   泣くことは逃げることじゃない先輩の言葉に泣いた私と夕日  松田わこ
2017/10/9
   ねえちゃんは鏡の中のねえちゃんと目が合うたびに律儀に笑う  松田わこ
2017/10/16
   ねえちゃんがファッション雑誌を買ってきて家族全員驚いた秋  松田わこ
2017/10/22
   塩尻で四種のぶどうの食べ比べ家族が笑う家族の時間  松田由紀子
   夕方の塩尻駅を吹き抜けるぶどう色の風かすかに甘い  松田梨子
   あったかい赤彦汁がおいしくて「おかわり」という言葉思い出す  松田わこ
2017/10/30
   かくすのが苦手なねえちゃん家族中見守っている秋の恋模様  松田わこ
2017/12/10
   寝ちゃうのがもったいないのに眠ってた初戦突破の帰りのバスで  松田わこ
2018/1/6
   瀬戸内のレモンのように聡明できれいに話す友達がいる  松田梨子
   大切に最初のラの音準備するホールにヘンデルを感じつつ  松田わこ
2018/4/29
   妹と二人旅する信州路染めたてみたいな春の青空  松田梨子
   ねえちゃんを想ってくれる人がいて今日はほのぼのレモネード日和  松田わこ
2018/5/6
   レストランメインディッシュを食べながら妹がチラ見しているスマホ  松田梨子 
   文字よりも今日は音符と過ごしたい泣きたいけれど泣かないと決めて  松田わこ
2018/8/26
   二十歳から始めることとやめること考えている猫をなでつつ  松田梨子
   「やくそく」って素敵な響き白桃の優しさ晩柑の爽やかさ  松田わこ

 〔註〕 上掲作品中の「2015年/3月/16日」以前の作品に就いては、インターネットに拠って検索する事が出来た作品のみを転載したのであるので、松田短歌姉妹の当該期間の朝日歌壇入選作の全てが転載されているのではなく、かなりの漏れがあるものと推測されるが、それ以後の作品に就いては、私の所有するスクラップブックから転載したものであるので、当該期間の松田短歌姉妹の朝日歌壇の入選作のほぼ全て(一部・私の読み落としが在るかも知れませんが)が転載されているものと推測される。
  

今週の「朝日俳壇」より(2018/8/26掲載・そのⅠ)

〇   敗戦忌幾千の螢ふるさとへ   (川口市)青柳悠

 選者・長谷川櫂氏の選評に「この螢は兵士の魂だろう。しかし、そういわないところがいい」とあり。
 長谷川氏も馬鹿馬鹿しいことばっか言うなって!
 長谷川選の首席。

〇   炎えあがる女のかたち花カンナ   (各務原市)市橋正俊

 長谷川選の次席。

〇   戦前戦中戦後ありけり籐寝椅子   (みよし市)稲垣長

 長谷川選の三席。

〇   今宵より守宮二匹となりにけり   (今治市)横田青天子

 長谷川選の四席。

〇   阪神も巨人も見つめゐる白雨   (静岡市)松村史基

 長谷川選の五席。

〇   枇杷の実の食い足りないさや種ふたつ   (豊岡市)山田耕治

 長谷川選の六席。

〇   英霊にあらぬ怨霊敗戦忌   (胎内市)今村克治

 長谷川選の八席。

〇   一つだけ南瓜収穫畑終ひ   (伊東市)山田みずほ

 長谷川選の九席。

〇   四十年嫁といふ座に生身魂   (長野市)縣展子

 長谷川選の末席。   

今週の「朝日俳壇」より(2018/8/26掲載・そのⅣ)

〇   亡き父の齢を超えし墓参かな   (神戸市)池田雅かず.

 稲畑選の首席。

〇   垂直に夏の酷雨の降り止まず   (西宮市)竹田賢治

 稲畑選の次席。

〇   じつと聞く娘の言ひ分や夜の秋   (名古屋市)中野ひろみ

 稲畑選の三席。

〇   草木の色も匂ひも失す旱   (岐阜市)花川和久

 稲畑選の四席。

〇   下町や噂話も網戸越し   (西宮市)黒田國義

 稲畑選の五席。

〇   川床料理まず川風でもてなされ   (大阪市)山田天

 稲畑選の六席。

〇   日盛といふ静けさでありにけり   (姫路市)大谷千華

 稲畑選の七席。

〇   啼きやまぬ鴉朝から園残暑   (市原市)鈴木南子

 稲畑選の八席。

〇   庭もまた酷暑に喘ぎ水を欲る   (佐賀県基山町)古庄たみ子

 稲畑選の九席。

〇   みな同じ顔して汗を拭きにけり   (川西市)上村敏夫

 稲畑選の末席。

今週の「朝日俳壇」より(2018/8/26掲載・そのⅢ)

〇   夕焼の樹上に出でぬエレベータ   (仙台市)柿坂伸子

 高山選の首席。

〇   星合や狐狸と棲む親残しゐて   (福岡県鞍手町)松野賢珠

 高山選の次席。

〇   路地裏を火事と見紛う鰻の日   (八王子市)樋口雄二

 高山選の三席。

〇   下駄履きのコックのスマホ雷遠し   (横浜市)猪狩鳳保

 高山選の四席。

〇   夏帽を振れば夏帽振られけり   (彦根市)阿知波裕子

 高山選の五席。

〇   九条の兜太をつれて浮いてこい   (札幌市)渡辺健一

 高山選の六席。

〇   仰ぐ人影絵となりぬ大花火   (守谷市)柳沢惇夫

 高山選の七席。

〇   厄払ふやうに朝の髪洗ふ   (川越市)渡邉隆

 高山選の八席。

〇   着ぐるみの中身に水を振舞へる   (相馬市)根岸浩一

 高山選の九席。

〇   仁王門の蟬ひたすらにひたすらに   (多摩市)又木淳一

 高山選の十席。  


   

ブログ逍遥─「黒田英雄選『塔』八月号・陽の当らない名歌選2」を読む─

 今月も亦、黒田英雄氏選の「陽の当たらない名歌選」所収の佳作・傑作を鑑賞させていただきます。
 選者の黒田英雄に於かれましては病気療養中にも関わらず、こうした{陽の当たらない」傑作・佳作を、私・鳥羽散歩に鑑賞する機会を与えて下さいまして真に有り難く、御礼申し上げます。
 また、それぞれの作品の作者の方々に対しても、「『塔』八月号・陽の当たらない名歌選2」からの無断引用かつ無断論評させていただきました事を深く感謝致します。

〇  選ぶとは何かを選ばぬことでありきょうもわたしは何かを捨てる  西村那由

 「何かを選ばぬこと」とは「何かを捨てる」であるが故に「きょうもわたしは何かを捨てる」となどという持って回った理屈が魅力の一首である。
 他に言い方が在ろうものの、敢えて「選ぶとは何かを選ばぬことでありきょうもわたしは何かを捨てる」などという言い方をする西村那由さんは、目立ちがり屋の偏屈者である。
 また、この偏屈者が詠んだ偏屈な短歌に「陽の当らぬ名歌」として陽を当てた選者・黒田英雄氏は、西村那由さんに勝るとも劣らない目立ちがり屋の偏屈者なのである。
 という次第で「陽のあたらない名歌選」とは、目立ちがり屋の偏屈者同士の出逢いの場なのである。
 更に言うならば、「偏屈」とは「個性」の謂いであり、偏屈で無い短歌には魅力などは金輪際有りません!

  選ぶとは選ばれなかった側の持つ魅力にまなこを瞑ることである  鳥羽散歩
  親を捨て友人を捨て子も捨てて金銭のみに執して生きよ
 
      
〇  モノクロの鉄腕アトムのラストシーンみたいに君へまっすぐまっすぐ  太田愛葉

 「フルカラー・満艦飾」全盛の昨今、敢えて「モノクロの鉄腕アトム」という言い方をしなければならない所に本作の作者・太田愛葉さんの偏屈さ、即ち「個性」の一端が認められる一首である。
 そのような偏屈な言い方をしなければならない理由は、「鉄腕アトム」の作者の手塚治虫氏の漫画の多くが、「紙質の悪い雑誌に掲載されたモノクロ漫画であるし、また、そうでなければならない」と言う、手塚治虫作の漫画に対する、本作の作者の熱い思い寄せにありましょう。
 更に熟慮してみると、「君へまっすぐまっすぐ」といったような類の恋は、今風な恋とは異なる恋、言わば「モノクロ風な恋」である、という「作者の個性的かつ時代遅れの恋愛観」に在るのかも知れません。
 よくよく考えてみれば、昨今の若者の多くは、誰も彼もが似たような恋をしている事である。

   ネット上で出会い愛し愛されてネットに消えたネット上の恋  鳥羽散歩
   あの頃は全てモノクロまるはだか!日がな一日ターザンごつこ!


〇  マンションがどうやら月をたべたようこっそりにじむたべあとの光  田中しのぶ

 要するに、「折からの満月が高層マンションの陰に隠れて半ば見えなくなってしまった」と言いたいのでありましょう」が、作者は「こっそりにじむたべあとの光」にも、一方ならぬ食指を感じているのでありましょう。

   マンションが食べ損なつた半月の食べ損ないの光の淡さ  鳥羽散歩


〇  ドレスの裾ひきずるやうな水脈(みを)ののち船は港をおぼえてゐない  小田桐夕

 作者・小田桐夕さんは一艘の帆船と化した自らの体験を斯く述べているのでありましょうか?
 「ドレスの裾ひきずるやうな水脈(を曳き)」とは、女性である作者の浪漫的な真夏の夜の夢であり、「(その)のち船は港をおぼえてゐない」とは、覚醒後のデカダン的な倦怠感ないしは疲労感を述べているのでありましょう。
 斯くして「デカダン主義」は「ローマン主義」を追跡するが如く遣って来るのであり、才能と夢多き女性歌人の多くは、その両者に食い潰されて自らが操縦する帆船を転覆させ座礁させてしまうのでありましょう。

   ドレスの裾引き千切られて転覆し帆船再び航海出来ず  鳥羽散歩
  
 
〇  自己嫌悪で泣いていること君だけには言えない似た者同士の君には  かがみゆみ

 「自己嫌悪で泣い」た経験を持たぬ人間には文学を語る資格が無い!
 「自己嫌悪で泣いていること」は、自らが真実の歌詠みである事の証しなのかも知れません。
 であるが故に、本作の作者・かがみゆみさんは「似た者同士」などと忌避せずに、彼に全てを打ち明けるべきでありましょう。

    「ただいま」と一言だけ言い帰るべし!彼は貴女を許してくれる!  鳥羽散歩


〇  「ただいま」と「お帰り」の間(ま)に猫の名を呼ぶ癖のまだ抜け切らぬ日々  佐伯青香

〇  空と海が同じ色になったとき深呼吸して青を吸いこむ  濱本凜

〇  続編がすぐい始まる番組の不幸がどんどん安つぽくなる  濱松哲朗

〇  トマトからトマトソースになるまでの過程をきみは崩壊と呼ぶ  紫野春

〇  主観的世界を閉じて地下鉄を降りる 過ぎゆくだけのホームだ  紫野春

 「主観的世界を閉じて地下鉄を降りる」とは、「乗車中はあれを食べたいこれも食べたいと思って居たが、そんな事を思うのを止めて地下鉄電車から降りる」といった事であり、単なる事後報告的な性質のものに過ぎません。
 ところが、彼女は女だてらに下車したばかりの駅の「ホーム」を掴まえて、「過ぎゆくだけのホームだ」などと、さも見下したようなセリフを口にする訳ですが、彼女は何が故にそんなにも生意気な事を口にしたのでありましょうか? 
 答……彼女が地下鉄電車を下車したのは、下車駅の「ホーム」に格別な用事があったからでは無くて、下車駅の改札口を出て徒歩三十秒の「立ち喰い蕎麦の店」に用事があったからなのである!

   主観的に言うならば彼は彼女を捨てるべし!フリーにすべし!  鳥羽散歩


〇  うれしいね じんわり首を絞めていくように門出の言葉を吐いて  頬骨

〇  黒ずんだペコペコ息するスリッパの裏側みたいな青春もある  みずおち豊

〇  捨てるためにきれいに襞を重ねけりむかしの雨のにほふこの傘  岡部かずみ

〇  狂いてもよしと思いぬ 四十年過ぎて時計のずれはじめたり  菊井直子

〇  泣き続け涙枯れたら気も晴れたなんて訳ないことを知ってる  北乃まこと

〇  ため息を叱る息子よため息の一つもついて泣けばいいのに  宮脇泉

〇  冬の町に何を踏みきし靴底ぞ白き小石のひとつ挟まる  森川たみ子

〇  追いかけて追いつきそうな過去を避け烏丸丸太へハンドルをきる  永田櫂

〇  すぐにまた指紋が眼鏡につくようにフラッシュバックはまとわりついて  椛沢知世

〇  豆腐屋の録音された笛の音のもの悲しくて豆腐買うたる  北野中子

〇  天井に貼続けしは小六の息子の書いた習字の「周囲」  芳賀直子

〇  思い出を聞こうじゃないか相槌を打つためにこそ助手席に乗る  ひじり純子

〇  謝ればすむと思っているんでしょ 謝ればなおはげしき怒り  垣野俊一郎

〇  山峡の公民館に一輪の向日葵咲くごとし小島ゆかり氏  鎌田一郎

〇  窓の外に痛いよ痛いよ泣く子をり泣きてやはらぐ痛み思へり  三好くに子

〇  一度だけ聞かされ確かに見たような 父の吐血の器にあふるるを  廣瀬美穂

今週の「朝日俳壇」より(2018/8/19掲載・そのⅢ)  三訂版、只今公開!                                 お寺さ行ぐどて蕎麦屋さ引っ掛がってみんなに笑われだ

〇   広島にアウシュビッツに蟻歩く   (横浜市)飯島幹也

 蟻の如く痩せてか細き二本の脚を駆使してホロコーストに赴くユダヤの民!
 あの禍々しき昭和二十年八月六日、午前八時十五分のピカ地獄に因って無残にも殺戮された我が広島市民!
 民族浄化、ユダの末裔だという理由で以てユダヤ人を虐殺したナチスドイツの残虐さ!
 自分たちと肌色の違う民族であるという理由で以て広島と長崎に原爆を投下したアメリカ社会の残虐さ!
 思い返すだに腸が煮え繰り返る思いがする白色人種の思い上がりであり、人類史上類例の無い極悪犯罪である!
 大串選の首席。

     広島でアウシュビッツで顕じたる人類史上類無き悪意!  鳥羽散歩


〇   閉山の町をメロンで興しけり   (久慈市)和城弘志

 <2018年5月26日10時50分>付けの「朝日新聞DIGITAL」は、5月26日の早朝に札幌市中央卸売市場で行われた夕張メロンの初競りに就いて次のように報じている。

 即ち「夕張メロン1箱(2玉)で320万円――。札幌市中央卸売市場で26日早朝、毎年恒例の初競りが行われ、過去最高値を記録した。落札者は北海道夕張市の青果梱包会社社長。最近は香港などで贈答品として人気があり、初競りの最高値は2010年以降、100万円以上が続いている。夕張市農業協同組合によると、初競りには8人の生産者から、254箱(507玉)のメロンが届けられた。今年は積雪が多く、3月の畑作りが遅れると心配されたが、生産者の努力で平年並みの出荷量を見込んでいる。6~7月に旬を迎えるという。落札した野田慎也さん(47)の青果梱包会社は2007年に財政破綻した夕張市で30年間にわたり、夕張メロンで商売を営んできた。野田さんは『夕張が話題になって、観光客がもっと増えてくれれば』と期待する。落札したメロンは夕張市農協銘産センターに展示し、6月1日、先着60人に試食として振る舞うという。初競りには夕張市の鈴木直道市長(37)も駆けつけ『初競りのメロンが地元に帰ってくることは、これまでなかったと思う』と里帰りに驚いた様子だった」とか。

 上掲の記事の如く、ここ数年間の夕張メロンの高値とその売れ行きには、目を見張るべきものがある。
 今となっては「夕張メロン」と言えばブランド化し、真綿で包んで育てられた親方衆の「嬢っこ」のように扱われ、東京ならば、銀座千疋屋だとか新宿高野だとかと言った、セレブ御用達の高級フルーツ店で販売されていて、それらは、セレブ気取りのご婦人方が、財務省に勤務するご亭主の上司のお見舞いの品として消費ならぬ消耗されているのが現状でありますが、然しながら、「夕張メロン1箱(2玉)で320万円」というのは、あくまでも北海道一番の消費都市・札幌市での初競り価格であり、俗に謂う<ご祝儀価格>でありますから、当然の事ながら、2007年(平成19年)3月6日を以て深刻な財政難から財政再建団体となり、事実上の財政破綻都市とも言うべき夕張市で生産されるメロンの全てが、一個当たり百六十万円と言う<目ン無い千鳥の目玉が飛び出るような高価格>で取引される訳ではありません!
 夕張市の人口は、石炭産業の最盛期には十二万人以上の多きを数えましたが、それも束の間、2013年(平成25年)、には一万人を割り、この後も減少の一途を辿るばかりで、数少ない夕張市民の大半は、転居しようにも身動きならない高齢者である、との事であります。
 夕張市の斯かる現状を鑑みると、「閉山の町をメロンで興しけり」という一句は、「夢の夢のまた夢の夢物語」としなければなりません!
 従って、本句は「復興をメロンに託す夕張市」とでも改定した方が適当かと存じます!
 大串選の次席。

     復興に夢を託して育てよう夕張メロンは打ち出の小槌!  鳥羽散歩


〇   初恋の人登り行く雲の峰   (長崎市)下道信雄

 「初恋の人」は、この度めでたくも「昇天」ならぬ「昇雲」なさったのでありましょうか?
 大串選の三席。

     初恋は四半世紀も前のこと愛しき君は天に召されぬ  鳥羽散歩
 

〇   原爆忌髑髏の如くきのこ雲   (福島県伊達市)佐藤茂

 彼の禍々しき朝を回想しての一句でありましょうが、「月並み!」と謂うも愚かな駄句である!
 斯かる駄作を入選作とした選者・大串章氏の見識が問われる場面かと思われます!
 大串選の四席。

  あの朝も「リトルボーイよ花咲け」とトルーマン氏はイエス様に祈りを捧げたのでありましょうか!  鳥羽散歩


〇   決壊の土手をわたりぬ広島忌   (日光市)渡辺全朗

 七十七人が死亡した二〇一四年の土砂災害から四年を経た今年も亦、広島市を含めた西日本各地は豪雨禍に襲われた!
 本作の作者・広島忌の八月六日に「決壊の土手」を渡ってご出勤なさったのでありましょうか?
 大串選の五席。

     決壊は土手のみならず心まで八月六日仕事だ今朝も!  鳥羽散歩


〇   軍港の沖に巨大な雲の峰   (芦屋市)奥田好子

 自衛隊が軍隊で無い以上は、厳密な意味での「軍港」は我が国には存在しません!
 例えば、私が住んでいる神奈川県の横須賀には「海上自衛隊の横須賀基地」が置かれていますが、是を称して「横須賀軍港」とは呼びませんし、法律上呼ぶ事が出来ません!
 また、関西方面でしたら、京都府舞鶴市には「海上自衛隊の舞鶴基地」が置かれていますが、是を称して「舞鶴軍港」などと呼ぶ自民党所属の国会議員が現れたら、彼はたちまち国民や野党議員などから憲法と自衛隊法に対する認識不足を指摘されて議席を失う結果にもなりましょう!
 本句中の「軍港」とは、「海上自衛隊の舞鶴基地」を指して言うのでありましょうが、作者の奥田好子さんがただの庶民であったから良かったものの、仮に彼女が芦屋市の市議会議員だとか芦屋市立宮川小学校の校長であったとしたならば、芦屋市内に忽ち「狂女、奥田好子を罷免せよ!」、「彼の気狂い女を座敷牢に隔離せよ!」との莚旗が立つ結果となりましょう!
 それはともかくとして、「軍港の沖に巨大な雲の峰」とは、これから何かどでかい不祥事が起こりそうなイメージですね!
 「雲の峰」即ち「入道雲」の彼方から、核武装した某経済大国の航空母艦が現れて、たまたま関西地方を遊説していた総理大臣何某が慌てふためいて、同行していたゴッドマザーの着物の袖にしがみ付いたりする、といった珍妙な現象か何かが起こりそうな気がします!
 「軍港」の一件を別にすれば、本句には「発見があり、驚愕があり、言葉と言葉のダイナミックな衝突があり」、なかなかの傑作です!
 大串選の六席。

     雲の峰崩れて見ゆる戦艦に白・青・赤のだんだら国旗  鳥羽散歩
     雲の峰崩れて見ゆる戦艦に五星紅旗の煌めき居たり
     雲の峰崩れて原潜顕れて星条旗二旒はためき居たり


〇   遠花火火星が一つ残されし   (柏市)藤嶋務

 某筋からの情報に拠ると、「2018年7月31日、火星と地球が5,759万キロメートルまで大接近します。火星の明るさは2018年6月下旬から9月上旬頃までマイナス2等を超え、観察しやすい時期が長く続きます」との事である。
 従って、今年の夏祭りや盆踊りの夜には、「遠花火」の轟く音が微かに聴こえる南東の空の彼方に大接近した火星だけが輝き残っている、といった珍しい現象が見られる事でありましょう。
 大串選の七席。

     吾のみが死に損なつて遠花火 音のみ聞こえて輝きもせず  鳥羽散歩


〇   夏が逝くわれは逝かずよ九十五   (藤沢市)細井華人

 御齢九十五歳にして、その壮んなるや真に羨ましい!
 この勢いでは、藤沢市にお住いの後期高齢者・細井華人氏は、これからひと花もふた花も咲かせる事が出来ましょう!
 大串選の八席。

     夏が逝く汝は逝かずに働こう九十五歳は洟垂れ小僧!  鳥羽散歩
     年齢差七十五とはあまりなり!九十五翁再婚せしとふ!


〇   好きなりし踊りに紛れて還り来よ   (千葉市)高山薫

 今年は、「我が国の三大盆踊りの一つに数えられている<羽後・西馬音内の盆踊り>も、折からの台風の雨に祟られて、会場を羽後町総合体育館に変更して行われた」との事である!
 西馬音内を中心地区とする秋田県羽後町と言えば、<日本一の出稼ぎ町>とされていて、盆踊り以外には、なんら観光客を呼び寄せる手立てを持たない田舎町である。
 因みに、今から十数年前までは、首都圏内のスーパーや八百屋などの売り場にも、「盆踊りの町・西馬音内の西瓜」というレッテルを貼った西瓜が並べられていたものであったが、この数年間は、その西瓜は勿論の事、羽後町で生産された農産物が首都圏内の青果店やスーパーの売り場に並べられている光景を、私は目にした事がありません!
 それだけに、今回の盆踊りに関わる一件は真に残念な出来事であり、心の底から「西馬音内の方々よお気の毒様!」としか申し上げようがないのでありますが、然し乍ら、「あの羽後町総合体育館の明るさでは、暗さに紛れて盆踊りの輪の中に入って来るとされている亡霊たちも、あれこれと苦慮された挙句に、あの世とこの世の境目を彷徨う」事でありましょう!
 「好きこそものの上手なれ」とは、人間世界の諺の一つではありますが、いくら好きでもあの明るさでは紛れようにも紛れる事が出来ません!
 尚、本句の作者・高山薫さんは千葉市にお住いの方であり、本句は、千葉市内で行われた盆踊りに取材しての一句でありましょうが、それを承知の上で上記のような鑑賞文書かせていただきました!
 大串選の九席。


ヤートーセ ヨーイワナー セッチョー (キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 時勢はどうでも 世間はなんでも 踊りコ踊らんせ (アーソレソレ) 
    日本開闢 天の岩戸も 踊りで夜が明げだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)  
ホラ 見れば見るほど 優しい踊りで 拍子も穏やがに 
    天下泰平 五穀は豊作 百姓大当たり
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 子どもの踊りは 無邪気なものだよ 拍子は何でもええ 
    ドロンの太鼓で お手手を広げで 一足前に出る
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 踊りの上手も 見目の良いのも 土地柄血筋柄 
    何でもかんでも 嫁コを欲しけりゃ ここから貰わんせ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ ドドンと響いた 櫓太鼓に 集まる踊り娘は 
    馬音の流れに 産湯を使った 綺麗な嫁コだじ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 彦三頭巾に 振り付け姿は 誠にあでなもの 
    誰や彼やは 分からぬながらも 踊り子懐がしい
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 今年の踊り子ぁ 揃うも揃うた 本当によく揃うた 
    彦三頭巾に あでな編笠 振付ゃ日本一
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 高い櫓の 絵灯籠が灯って 音頭が湧き出れば 
    川原田の方から 月が出てきて 雲から覗いでる
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 神代の昔に 踊りコ踊たば お日様顔出した 
    それから毎月 踊りコ見でゃどて 欠かさず顔を出す
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 出雲の神様踊りコ 見でゃどて はるばるやってきた 
    上手に踊れば 手帳さ控えで 嫁コに早くやる
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 踊るはねるて 若い内だよ おらよに年いげば 
    なんぼ上手に 踊って見せだて 誰も見る人ねぇ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 大太鼓小太鼓 笛三味線 鼓に摺り鉦コ 
    五拍子そろえで 音頭をかけだば 江戸中鳴り響いだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 取ってきた 取ってきた 一番取ってきた 
    おら方の踊りコぁ 江戸の舞台で 一番取ってきた
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 振袖姿の 踊り子見たれば 不思議に若くなった 
    拍子にうかれて 二足三足 知らねで踊ていだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 所名物 行ったら見てこい 西馬音内盆踊り 
    嫁コも姑コも 拍子につられで そのまま踊り出す
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 信淵先生 生まれた西馬音内 名物たんとある 
    米コに繭コ 酒コに糸コ 炭コに箸コだんす
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 今年は豊作 田圃を見渡せ 黄金の稲だらけ 
    盆踊り踊って お祭り見てがら うんとて稲刈りせぇ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 何処さ行っても 不景気話は せっぺぁ聞き飽ぎだ
    三味線太鼓の 踊りの拍子で 不景気ぼってやれ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 三月かがって 踊りコ習うたば ようやくものになた 
    踊ったおかげで 腰あンべよいどて 嫁コに貰われだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 豊作だ万作だ これまたよい秋だ 
    面白まぎれに もひとつ踊たば かかぁ腹万作だ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ とうに年寄りの 踊りコよいどて みんなでおだてだば 
    本気になりゃがて 振袖持ってこい 編笠早く出せ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 一杯機嫌で 踊りコ踊たば みんなに褒められだ 
    いい気になりゃがて ほかぶり取ったれば 息子に怒られだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 隣の嫁コさ 盆踊り教ぇだば ふんどし礼に貰た 
    早速持って来て かがどさ見せだば 横面殴られだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 地口という奴ぁ 口からでまがせ 音頭の無駄を言う 
    言われて悪い奴ぁ 後ろさ回って 一斗樽ぶら下げれ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 地口櫓で 地口を言うのは おらよな奴ばかり 
    気の利いたあんちゃは ぐりっと回って 二三度やった頃だ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ おら家のお多福ぁ 滅多にないごど びん取って髪結うた 
    お寺さ行ぐど て蕎麦屋さ引っ掛がって みんなに笑われだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ おら家の爺さまと 隣の婆さまは よっぽど仲がええ 
    お寺さ行ぐどて 蕎麦屋さ引っ掛かって お布施で酒呑んでだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 兄さん兄さん 嫁コを取るなら おれどご貰てけれ 
    踊りも踊るし 唄コも歌うし お産も軽いがら
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ おら家のめらしコ 盆踊り始まりゃ 仕事さ手につかね 
    太鼓の拍子で 腰巻縫ったらば 表さ裏着けだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 内気なあんちゃを 無理矢理引っ張ってきて 踊りコ見に行ったば 
    赤いけだしの 踊り子姿に 家さなど戻る気ねぇ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 西馬音内名物 橋場饅頭に 薄皮青饅頭 
    おら家の赤ちゃん またも饅頭で 姑かが大むぐれ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 良い事悪い事 地口櫓で あんまりしゃべてけな 
    隣の嫁コぁ 何とか言われで その晩ぼだされだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 桜は川原田 つつじは原コで お酒は若返り 
    一杯機嫌で 弥助蕎麦だよ 土産は蕎麦饅頭
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 二万石橋から 東を望めば 川原田稲荷様 
    西は鳥海 北は大沢 南は原コ山
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ お前だじお前だじだじ 行くたて来るたて 電車に乗るごどだ 
    白山権現 三輪の三社に アグリコ稲荷様
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 雄勝鉄道の 電車に乗ったば これなば気持ちええ 
    雄物の川越え 稲穂の波わけ 鳥海雲に見る
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 川原田の池には 緋鯉に真鯉 じょろじょろ遊んでる 
    たまには木陰に がさごそめかして 浴衣の鯉もいる
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 蚕で糸取る 馬コで仔コ取る 女郎衆は客を取る 
    町でぁ盆踊りで 人々集めて いろいろ人気取る
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 囲炉裏のカネガメ カネ出すときには くさいと嫌がられ 
    それでもあねさん 口まで吸われて 鏡で身を照らす
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 秋田の西馬音内 本当によいとこ 皆さん来てたんせ 
    湯沢の駅から 道のり二里半 車で十五分
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 院内の町がら 湯沢の町さ 不思議な大工が来た
    呑みでゃぐ 喰うでゃぐ ヘコしでゃぐ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ あの税この税 役場の税なば 息つぐ暇もねぇ
    あるものⅶいで せっきり飲んで食って ヘコして死んだ方え
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)  
ホラ ドッコイドヤ箱 ドッサリかついで ドヤさん何処へ行ぐ 
    隣の婆んば 分福茶釜を ぶっ壊した話聞ぎに
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ みじゃコのすまコの 笊コのひろコを 味噌コで和えだどさ 
    表の座頭コに 食わせてみせだば うまいと喜んだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 田沢の田吾作 芋作茂作は 橋場の橋見でだ 
    どんがりふんでみで 鉄筋コンクリって やっぱり堅えもんだ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 太平の山から 納豆づと投げだば 西馬音内糸だらけ 
    アメリカやって来て 糸コを買ったば 西馬音内大繁盛
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 仙道の婆っぱ アンテナ見上げで 爺さん大変だ 
    これなばきっと 六尺坊主の 物干し竿だんべ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 国史に上った 学者の中でも 優れた信淵さん 
    生まれは何処だど たずねてみだれば 秋田の西馬音内
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 豊年満作 今年も上作 御嶽のおまもりだ 
    あげる御神酒は 松の緑に 鶴の若返り
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 稲作不作は どこの話だ 西馬音内上作だ 
    それもそのはず 百姓の神様 信淵誕生地
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 西馬音内言葉 集めでみだれば 何たらこやらしくね 
    えっぺなば出来ねど びゃこなばやんかどって だじゃぐする
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 西馬音内女ごは どこさえたたて 目に立つはずだんす 
    手つき見てたんせ 足つき見てたんせ 腰つき見てたんせ
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)
ホラ 名物踊りは 数ある中にも 西馬音内ぁ一番だ 
    嫁コも踊るし 姑も踊る 息子はなお踊る
(キタカサッサ キタカサッサ ドッコイナ)

     雨降つて地が固まらず!盆踊り会場変更!西馬音内気の毒!  鳥羽散歩


〇   紫陽花や出棺に傘差しかけて   (奈良市)住友ゆうき

 察するに、葬儀場の祭壇と霊柩車の在る位置とは、せいぜい数十歩しか離れていないものと思われる!
 それにも関わらず、祭壇から下ろされて親類縁者の方々に拠って霊柩車に運ばれて行く棺に雨が掛かって濡れるのを防ぐために、「傘」が「差しかけ」られるとは、遺族や親類縁者の方々のせめてものお心尽くしでありましょう。
 紫陽花は入梅の頃に咲く花である。
 その時節に行われる「出棺」の折りには、野送りの方々にとっても、火葬場まで赴かれる親族の方々にとっても、「傘」は決して手放す事が出来ない必需品でありましょう!
  大串選の末席。

     唐傘を差し掛けられて出棺す涙に濡れたご遺族の顔  鳥羽散歩

今週の「朝日俳壇」より(2018/8/19掲載・そのⅠ)                             突としてトランペットの鳴り響き凌霄花咲く夏季合宿所

〇   科のごと耐へるしかなき残暑かな   (大分市)高柳和弘

 今日は八月も半ばを過ぎた八月の二十二日であるから、今日の暑さは「猛暑」や「炎暑」と言うよりも「残暑」と言わなければならないのであり、それが私たち日本人の知性で教養であり、良き習慣でもありましょう!
 然るに、私・鳥羽散歩は知性に欠けた人間であるが故に、この一句を今の今まで「科のごと耐へるしかなき残暑かな」と読んでいたのである。
 パソコンの画面には朝日新聞に掲載されている通りに「科のごと耐へるしかなき残暑かな」と書き写しているにも関わらず、自分の気持ちの中では「科のごと耐へるしかなき残暑かな」と黙読していたのである。
 一体全体、私の目は何処に付いているのでありましょうか!否、私の気持ちは何処に飛んでいたのでありましょうか!
 私の気持ちが「残暑」を「猛暑」と読む程までも私の身体から遊離していたのも、今年の夏の暑さが私に齎した「科」なのがも知れません!
 今年の夏の暑さは、これを「猛暑」として捉えようが「炎暑」として捉えようが「残暑」として捉えようが、程度を越えた暑さ、尋常ならざる暑さであり、それは私たち日本人が何かの「科」として季節を統べる神様から与えられた暑さなのでありましょうから、ひたすらに「耐へるしかなき」暑さなのでありましょう。
 「大辞林」の記載するところに拠りますと「残暑」とは「立秋の後まで残る暑さ」の事。
 稲畑選の首席。

   山の宿残暑といふも少しの間    高浜虚子
   一人去り又一人去り庭残暑     稲畑汀子
   残暑とはショートパンツの老人よ  星野立子
   ほどほどに悪妻とほす残暑かな  内田雅子
   カレー匂ふバス終点の残暑かな  後藤志づ
   一雨に残暑和らぐ都心かな     稲畑廣太郎
   遅咲きのものあれこれと庭残暑   鷹羽狩行
   「残」の字を「猛」と誤る吾が残暑  鳥羽散歩  
  
  
〇   帰省子の話し上手や聞き上手   (相模原市)石田わたる

 「話し上手」になり「聞き上手」にもなれば、高い学費を支払って遊学させた甲斐があったというものである。
 稲畑選の次席。

   帰省子の孝行息子と化してをり     前田倫子
   帰省子を待つ地球儀とギターかな   黛まどか
   畔火進む帰省の電車遅ければ     香西照雄
   鳳仙花触るればはじけ帰省果つ    宮坂静生
   帰省子のえりあし白きまとめ髪     秋葉治江
   帰省子と呼ばれし頃の吾がありき   鳥羽散歩   


〇   その気持なけれど手足踊り出す   (高槻市)会田仁子

 「手の舞い足の踏む所を知らず」と言って、盂蘭盆の季節ともなればよくある事でありましょう。
 稲畑選の三席。

     その気持ち嬉しいだけに辞退せむ沖縄知事選勝てるはず無し  鳥羽散歩


〇   口下手も踊り上手も三代目   (北本市)萩原行博

 「踊り上手は口上手にして仲人上手」と昔から相場が決まっていたのでありますが、数多くの「踊り上手」の中には、「口下手」の「三代目」も居たのかも知れません!
 稲畑選の四席。

     口下手で踊り上手で床上手!紀州のドンの後添へにせむ!  鳥羽散歩


〇   桔梗咲く母在りし日の遠くなる   (小樽市)伊藤玉枝

 「桔梗」の花の淡い色彩が、今は亡き母との心理的距離をより遠くに馳せしむるのでありましょうか?
 稲畑選の五席。

     母の忌や桔梗むらさきなほ淡し  鳥羽散歩


〇   年月のとろりと重き梅酒かな   (八代市)山下しげ人

 三年物、否、五年物、否、もしかしたら十年物の「梅酒」なのかも知れません!
 稲畑選の六席。

     歳月かをとろりとろりと重ね来て十年物の梅酒の渋み  鳥羽散歩


〇   玻璃ふるふを目覚しとなり蟬時雨   (大阪市)行者婉

 「玻璃ふるふ」が如き「蟬時雨」を「目覚し」時計代りに起伏して、婉の行者は、今朝も暁前から熊野の行者道を踏み締めているのでありましょうか?
 稲畑選の七席。

     玻璃ふるふ心の曇り拭ふべく暁前の水垢離をせむ  鳥羽散歩

     
〇   碧空へ花をとどけし凌霄花   (七尾市)本谷眞治郎

  「凌霄花」とは、「『霄(そら)を凌ぐ花』の意で、<ノウゼンカズラ>の漢名であるが、高いところに攀じ登ることに拠って斯く命名 されたのであるが、漢詩にこの語が用いられる場合は、この花が他物に絡むため<愛の象徴>として用いられるのである」とか。
 「凌霄花」をして「碧空へ花をとどけし」と形容するのは、ややオーバーな表現とも言えましょうが、過剰表現やオーバー表現も亦、俳句表現の技法の一つでありましょう。
 稲畑選の八席。

     突としてトランペットの鳴り響き凌霄花咲く夏季合宿所  鳥羽散歩


〇   授業より金魚にばかり目がゆく子   (神戸市)藤井啓子

 自らの授業に自信を持てない女性教師の揺れ動く心理を描いた一句である。
 授業内容が貧弱だからそういう結果になってしまうのでありますから、藤井啓子さんご自身が「授業より金魚にばかり目がゆく子」の心を惹き付けるような学識経験のある教師となり、魅力的な授業をしなければなりません、という事になりましょうか!
  稲畑選の九席。

     夏に負け金魚に負けて啓子さん退職勧奨受けむとすらむ  鳥羽散歩


〇   炎帝の威に負けてゆく老いてゆく   (高松市)和泉金子

 「炎帝」とは、「中国古代の伝説上の帝王、三皇五帝の一人、炎帝神農氏のこと。火の徳によって王となったところから、中国に於いては<夏を司る神>とされている」との事。
 猛暑続きの今年の夏は、「夏を司る神である炎帝が持ち前の猛威を遺憾なく発揮して、私たち日本人を懲らしめようとしているのでは無かろうか」と、私・鳥羽散歩は胸中秘かに思っているのであるが、本句の作者の和泉金子さんも私と同じような思いに捉えられていて、今年の夏の猛暑に負けそうになっているのでありましょうか?
 年老いてしまうと何かと悲観的な考え方に陥りがちであるが、本句はそうした作者の現況を偽りなく述べた佳作である。
 稲畑選の末席。

     金子さん金子拝借致したく一筆啓上申し上げそろ  鳥羽散歩

今週の「朝日俳壇」より(2018/8/19掲載・そのⅣ)                                        嘘と糞!おケツ隠しの不潔さよ!アッペに賽銭あがる祭典!

〇   友来たる入道雲の彼方より   (東京都)桜井京子

 「山の彼方の空遠く幸い住むと人の言う」と歌ったのはドイツ新ロマン派の詩人<カール・ブッセ>であり、それに唱和して日本中に笑いの渦を招いたのは落語家の三遊亭歌奴でありました。
 ところで、本作中の「友」なる存在は「入道雲の彼方」より東京都にお住いの桜井京子さんのお宅に訪ねて来たと言う。
 桜井京子さんがお住いの東京都から見ての「入道雲の彼方」とは何処の地を指して言うのでありましょうか?
 桜井京子さんの住所欄には、ただ単に「東京都」と記されているのみであり、世田谷区とか中央区とか港区とか杉並区とかの区名が記されていませんから、桜井京子さんのお住まいは、恐らくは、同じ東京都でも二十三区内では非ずして、三多摩地方の何処かの市町村に違いありません?
 或いは、東京都と言っても天皇陛下のお住いになる皇居からは遙か離れた伊豆七島か何処かの離れ小島でありましょうか?
 それらの孰れの地にしろ、とにもかくにも、本作の作者の桜井京子さんのお宅に、この度は「入道雲の彼方」よりお友達が訪ねて来たのでありますから、これからの桜井京子さんの生活には、多大なる<幸い>が齎されるに違いありません!
 桜井京子さん、この度は真にお目出とうございます!
 桜井京子さんは来年の今頃は、苗字を替えて朝日俳壇の高山れおな選の首席入選を果たしているに違いありません!
 ところで、「入道雲の彼方より」「友来たる」という詠み方は、季題を提示して一句の中に季節感を醸し出すと共に、「友」の住む土地が何処とも知れないという<謎とロマン>を醸成する表現である。
 高山選の首席。

     奥多摩ゆ訪ねて来たる友のあり猪の肉どつさり背負ひ  鳥羽散歩
     離島より訪ねて来たる友の居て我が家の居間にイルカの香り


〇   八月は真空日本ゆやゆよん   (久留米市)西原和美

 今は亡き、第一次戦後派の小説家・野間宏作の長編小説に『真空地帯』あり。
 そのあらすじの一部を示すと下記の通りである。
 
 即ち「陸軍刑務所での2年間の服役を終え仮釈放となった木谷一等兵(上等兵から降等)は、敗色濃厚になりつつあった1944年の冬に古巣の大阪歩兵聯隊歩兵砲中隊に復帰する。木谷は聯隊経理室勤務の事務要員であったが、経理委員間の主導権争いに巻き込まれ、上官の財布を窃盗した疑いで軍法会議にかけられた。馴染みの娼妓から押収された木谷の手紙の一節は反軍的と看做され取調の法務官に咎められるのだった。刑務所での苦しい生活から解放されて戻ってきた中隊では、木谷を知る者は古い下士官しかおらず、内務班の兵隊は年次が下の現役古参兵と初年兵の学徒兵、それに応召してきた中年の補充兵ばかりであった。古参兵は野戦行の噂におびえ、学徒兵は慣れない兵隊生活に戸惑い、班内は荒れていた。古参兵どもは木谷がどこから帰ってきたのか詮索しようとするが、本人が明かさないので、陸軍病院下番(退院)で少し頭がおかしいのだと思っている風であった。そのうち、どこからともなく陸軍刑務所に入っていたと分かり、しかも自分たちより軍隊生活の長い最古参の4年兵であったので、班内は奇妙な空気に包まれる。ある夜、班内でおおっぴらに監獄帰りと揶揄した初年兵掛上等兵を散々に打ちのめした木谷は、4年兵の権威をもって班内の全員を整列させ、『監獄帰りがそんなにおかしいのかよ』と喚きながら一人一人に次々とビンタを見舞うのだった。孤立状態のなか、木谷はもとの経理室の要員を訪ねるのだが、敬遠されてしまう。中隊事務室で人事掛の事務補助をしている曽田一等兵は、激しいリンチや制裁がまかり通る軍隊のことを一般社会から隔絶された<真空地帯>だと表現していた。」(以下、省略)

 自公連立政権下の平成末期社会こそは、正しく、野間宏が謂うところの「真空地帯」である。
 この地帯に棲息する住民どもは、常時嘘と糞とに塗れていて、必要とあらば、殺戮と暴力と虚偽答弁と公文書改竄と疑惑隠しと憲法解釈の捻じ曲げと脱税と談合と国有財産の権力者の知人への殆ど無償同然の払い下げと富の一方的な集積と弱者虐めと入試疑惑と憲法違反の自衛隊の戦地派兵などを白昼平然として行うのであり、この地帯こそは、私たち庶民にとっては住むに耐え難い「真空地帯」的な疑惑塗れ、汚泥塗れの社会なのである。
 自民党の金城湯池と謳われる、福岡県久留米市にお住いの西原和美さんは、「八月は真空日本ゆやゆよん」という一句を詠む事に因って、そうした「真空地帯」的社会の昨今の日本社会を皮肉り、痛烈に批判しているのでありましょう!
 我が国の戦前・戦中社会に充満していた、失望と怠惰と倦怠感の中に皮肉が込められた、中原中也作の詩「サーカス」からのパクリとも思われる本句の下五「ゆやゆよん」は、そうした真空地帯的な日本の現代社会に棲息している者としての作者・西原和美さんが、日頃から感じている倦怠感と忌避感を言い表し、皮肉と批判とを良く言い表している五音でありましょう。
 高山選の次席。

     嘘と糞!おケツ隠しの不潔さよ!アッペに賽銭あがる祭典!  鳥羽散歩
     嘘と糞!疑惑隠しの不潔さよ!安倍が再選果たすこの秋!


〇   ふくよかな闇つくる森天の川   (仙台市)柿坂伸子

 本句の作者の柿坂伸子さんは仙台市の住民である。
 仙台と言えば七夕!
 七夕と言えば天の川!
 今年の仙台の七夕の夜は、仙台市の住民や観光客の方々の眼に、天の川が見えたのでありましょうか?
 本句は、今年の仙台の七夕の夜に、天の川が見えたか否かとは関わりなく、作者・柿坂伸子さん独自の、幻想的かつ現実的な観察眼で以て詠まれた一句である。
 七夕の夜を彩る「天の川」が、「ふくよかな闇」を「つくる森」であるとするのがこの一句の趣意であるが、同じ「森」でも、その森は「闇の森」であり、同じ「闇の森」でも、その闇の森は「ふくよかな闇の森」であると柿坂伸子は詠んでいるのである。
 さて、「ふくよかな闇の森」の住人は、可愛い天使なのかも知れませんが、禍々しき姿の魔女なのかも知れません!
 高山選の三席。

     ふくよかな闇の森には政治屋が棲息して居て闇取引する  鳥羽散歩


〇   夏草や分譲中の旗に埋まる   (大阪府島本町)池田壽夫

 「東京なんかに遅れて居ては関西の恥」と言わんばかりに、関西方面の辺地に於いても宅地開発が始まったのであり、大阪府島本町で「夏草」が「宅地分譲中」の「旗」に埋もれている光景こそは、そのシンボルの如き光景である!
 高山選の四席。

     夏草や強者どもの夢の跡!宅地開発業者よ踏むな!  鳥羽散歩


〇   いのちの火こひの火この日晶子の忌   (我孫子市)大谷修介

 一句の眼目並びに季題は、下五の「晶子の忌」である。
 詩歌と恋とに命の炎を燃やした与謝野晶子は、1942(昭和17)年の5月29日に亡くなった。
 5月29日、即ち「與謝野晶子忌」は、没後に刊行された、与謝野晶子最後の歌集『白櫻集』(昭和17年9月)に因んで、「白櫻忌」とも呼ばれている。
 高山選の五席。

      葉櫻の緑まばゆき白櫻忌!多磨霊園に集ふ歌詠み!  鳥羽散歩


〇   炎昼を.煮かすべ提げて母の来し   (秋田市)神成石男

 作中の「煮かすべ」とは、「鱏の鰭の砂糖煮」である。
 ネットブログなどの記事に依ると、これは主に北海道や東北地方で冬期間に食する料理とされているが、本作の作者・神成石男さんと私との共通した郷里である秋田地方に於いては、この「煮かすべ」は、夏祭りや盂蘭盆などに欠かす事の出来ない御馳走とされていて、梵供養や夏祭りの為に親戚の家を訪問すると、訪ねる家ごとに直径一尺以上もある大皿に、この煮かすべを山盛りに盛り上げて大きなテーブルの上にどんと置かれるので、私たち訪問客は「また煮かすべか!」と口に出すこそしないものの頗る困惑したものである!
 「炎昼を.煮かすべ提げて母の来し」という本句は、離れて暮らす昔気質のご母堂様が、この郷土料理の「煮かすべ」の入ったお重をぶら下げて、この夏の猛暑の中を、ご子息の神成石男のご自宅に訪ねて来た事に感謝しての一句でありましょう。
 ところで、その「煮かすべ」用の「かすべ」であるが、その販売価格は年を追うごとに高値になってゆくばかりで、私たち庶民の口には、容易に入らないようになりましたので、作中の「母」も息子可愛さのあまりにかなり無理して秋田市の市民市場の「かねもと・伊藤鮮魚店」から買い求めて来たものであろうと、私は本作の作者の同郷人としてとても心配して居ります!
 高山選の六席。

     煮かすべに酒は木村の福小町!純米吟醸すこぶる旨し  鳥羽散歩


〇   むらさきの香の立ち上る鮎を焼く   (横浜市)片井久子

 「むらさきの香の立ち上る鮎を焼く」とは、実体験に基づき、実景に即した一句である!
 「むらさきの香の立ち上る」と、作者は視覚を嗅覚に還元して詠んでいるのである。
 ところで、鮎を焼く時にむらさきの煙が立ち上るのは、鮎の新鮮度と何か関りがあるのでありましょうか!
 高山選の七席。

      その香こそ姿見せねど紫のけむり上りて新鮮な鮎  鳥羽散歩


〇   マウンドの陽炎からの剛速球   (堺市)奥村英忠

 夏の甲子園は例年猛暑の中で行われるのであるが、今年は特に暑さが厳しかったから、決勝戦まで進んだ金足農業高校の吉田投手の剛速球は「陽炎」の立ち込める中から投じられたように対戦相手側の打者には見えたに違いありません!
 高山選の八席。

     炎の玉の如き速球跳ね返し大阪桐蔭春夏連覇!  鳥羽散歩


〇   炎昼に働いてまた働いた   (富士市)山本美和

 「働いてまた働いた」とは、働き過ぎを後悔するあまりのヤケクソになっての放言である!
 斯くなれば、立憲民主党を中心とした全野党は「働き方改革法案」ならぬ「働き過ぎ改革法案」を衆参両院に上程する必要がありましょう!
 高山選の九席。

     炎昼にたった一人で全試合投げ抜こうとした吉田輝星!  鳥羽散歩


〇   草の葉の蟬の殻ごと揺れてをり   (相馬市)根岸浩一

 この暑さの中に居たら、「草の葉」だって身体を動かしたくなくなるのも当然の事でありましょう!
 斯くして、「草の葉」は、自分の身体にしがみ付いて離れない「蟬の殻ごと」、折からの風のまにまに「揺れて」いるのでありましょう!
 高山選の末席。

     草の葉の風のまにまに揺れたれば蟬の抜け殻ゆやゆよんよん  鳥羽散歩 

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