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詩歌句誌面

読解なくして論評あらず。

「米川千嘉子第九歌集『牡丹の伯母』」を読む

〇  吉永小百合のほほゑみコンコースにつづき何かの罪のごとく老いざる

〇  銀色の高層ビルを仰ぐときおもふ近代断髪のをんな

〇  雷も聞こえぬ母の辺にひらく花菖蒲の紺父のごとしも
 
〇  堤防決壊思はざりけり銃に弾込むるごと川に雨降りゐしを

〇  元興寺明日香瓦をぬらす雨牡丹の花のうちがはに入る

〇  老人、老人、つひに若者あらはれず満員となり入口閉まる

〇  投稿にうつくしき夏の雨詠みし青年「無職」となる職業欄

〇  二十三時の電車に眠る若者のはるかな列の果てに眠る子

〇  つねに満ちくる時代にそだちし罪ありてアーケード街消えしふるさと

〇  水仙はこびとの帽子中年となれど水仙咲くたびおもふ

〇  女子トイレに小さな男の子の便器遊具のやうな春のかがやき

〇  だれのこころも知りたくないといふわれに金木犀は錆びて香りぬ

〇  わが父の持たざる時間君の父に溜まりこぼるる時間を掬ふ

〇  車椅子のひとと木椅子のひと語る むかしの童話になき車椅子

〇  廃墟とぞ見たる旅館の灯りつつ除染作業の人の夜の更く

〇  ああ何の枯れ野と思へば刈られざるまま川土に涸らびたる稲

〇  土台ごと地面に刺さる家はあれど東北の記憶に黙ると言へり

〇  田の主人いまだ戻らず泥海はひび割れながら冬の顔する

〇  ああ死者はわれの横がほ見てをらむバス停わきの白椿咲く

〇  見つからぬ子を捜すため潜水士となりたるひとの閖上の海

〇  雪よ雪よ白秋は雪の日卵を割りたまるなみだをしづかに詠みし

〇  白秋は薔薇の木といへり木の深さ木の沈黙をもちて薔薇咲く

〇  戦中のかの子の恋を読みて書く こころに滝があるといひしかの子

〇  河野裕子のあかあか赤ままの良妻のうた その幸ひはいまもそよぐや

〇  白飯の湯気わが顔にとびつきぬ 小島さんがおばあちやんになつた

〇  カリカリと録音のなかに鳴く雁よ「現代短歌雁」評論の時代ありき

〇  優しかる感想たまひし小紋さん雁書館はがたがたぴしとありしが

〇  死者の気配つもるうつつを高橋和巳死んで高橋たか子は書けり

〇  旧姓を筆名として捨てざるを誤魔化しと思ひ来し三十年

〇  憂鬱は大福を食べるときに来ずわれは関東つぶ餡派なり

〇  子に見せてならないものは死にあらず性ならずこのうす笑ひの答弁

〇  改札を出でくる背広の子に遇へり裸で産み何になれと育てし

〇  われと夫ただ書く夜に息子来て一夜眠れば闇やはらかし

〇  問ふたびにかならずしづかに返事して息子はわれの感傷を生きず

〇  転勤を重ねるうちにわが息子段ボール箱の一つにならむ

〇  ありありと読みちがへられゆく歌があり そのさびしさに餡パン一つ

〇  最後の晩餐おもへば夫も子もをらずただしんしんと粥食べるわれ

〇  デモをゆくひとりひとりよ母親はみどりごの髪の匂ひをかぎて

〇  失恋や水害の傷 痕跡をただ消すことが生ときみ言ふ
    
〇  検索をしてからひとに会ひにゆくあはあはとただ確かむる会ひ

〇  友部正人「密漁の夜」たはやすく二十歳のこころが甦るは怖し

〇  母性は国家のものとして保護すべしとぞらいてう言へりスマホなき頃

〇  ひかり濃きもののたたかひ沼を蹴る白鳥をつかむ一月の水

〇  防災無線豪雨のなかに音にごり耳とほ母の孤独おもへり

〇  疲れたる女の顔は疲れたる男の顔とちがふ 桃の日

〇  人は人をそんなに知つて幸せか 好きなうた、降りた駅、舌打ち

〇  女性車輛の人らおほかたわれよりも若くて痩せてわれよりも疲る

〇  ゲームのなかに女いよいよ気持ち悪く大き乳房と幼き顔もつ

〇  朝が来て次期大統領映りをり この人を見ない権利がない

〇  ドローンも白きおほきな牡丹もしんしんと闇をみがきて飛ぶや
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「紀水章生第一歌集『風のむすびめ』」を読む

〇  天上の使者のきさうな桜の夜 月のうさぎに見られておりぬ

〇  こはれさうな嘘を抱く夜群れて咲くほたるぶくろに光が入りぬ

〇  その蕊のおもひおもひの奔放を風になびかせ曼珠沙華咲く

〇  あふぎみる花梨の空の深みまでしんと冷やせりのど飴ひとつ

〇  とらはれてゐるのはわたし透きとほる蜘蛛の巣越しに見える青空

〇  わたくしはここにをります手をのべて鈴懸の樹が空にささやく

〇  ふし穴の外は光に満ちてゐて「もういいかい」と声響き来ぬ

〇  読みとけぬ詩のやうであるあなたへと傾くひかり ねむりいる種子

〇  ひとりより静かなふたりキッチンにおかれたパキラの葉が揺れている

〇  どうしても思い出せないパスワード月明かり射す鍵穴の奥

〇  すこしづつ拾ひ集めてきた言葉 星砂みたいにロートへ注ぐ

〇  残像をひきて振り子は狂ひなき軌道のさきのたましひを打つ

〇  楡の木は夢をみてゐたまどろみにゆふべ蒔かれた春のうたごゑ

〇  おぼろげな夢を見てゐるやうでした山のむかしを語る郭公

〇  靴あとにうさぎの足あと交差する雪やはらかな坂道くだる

〇  ふらつかずまはりゐる独楽少年のころへと独楽にまたひもを巻く

〇  折り曲げたからだは徐々に傾いてゆふぐれ駅のベンチに沈む

〇  どうしても思ひ出せないパスワード月明かり射す鍵穴の奥

〇  縁とふものの不思議さほどいてはまた結んでる風のむすびめ

〇  わたくしはここにをります手をのべて鈴掛の樹が空にささやく

〇  水滴は濡れる春野の乳色を映し子どものやうに揺れをり

〇  花群は蜂の羽音に開きゆくスローモーションビデオのやうに

〇  ゆふやみへ消ゆる鴉のフェルマータ呼ぶ声たかくとほくをはりぬ

〇  ハクチョウは飛ぶ舟のやう散らされたひかりのなかを昇りゆきたり

〇  水底の珊瑚の砂にゆらゆらと光の網が絡み揺れをり

〇  みぬちなる音盤は風にほどけゆき雪ふる空のあなたへ還る

〇  しぼんでた紙ふうせんをふくらます五月の明るい風をとらへて

〇  あのころの風が写ってゐるやうだすぢ雲のある青い空には

〇  ふるふると震ふシャボンの薄膜に空渡りゆく秋の映ろふ

〇  栗の木に風のちからの満ちてきてむかしばなしのみづぎはとなる

〇  ゆびあはせ小窓つくれば三角のあはひをよぎるあの夏の雲

〇  サンダルのホックがはづれスカートの波のあふぎにうづもるる女性(ひと)

〇  ふりむかぬきみの笑顔を写すためひかりのなかの輪郭を追ふ

〇  二次元に息づくねずみ雪の日のポストの洞に静まりてをリ

〇  青き灯の揺らめく夜のウォトカに嘘燃やしつつ飲みほしてゆく

〇  溶けるほどやさしい気持ちひたひたと満ち来る夜の水際にをり

〇  飛ぶことは難しいことコトリともけさは動かぬぬひぐるみたち

〇  いまよりもきみはきれいになるだらう淡きまぼろし露草の花

朝日新聞夕刊掲載「あるきだす言葉たち」を読む(黒崎聡美作『変わらないこと』)

〇  夜の体は少し重くてノンフライミックスナッツをただつまんでいる

〇  電線は鈍い白さに張り巡り冬はいつしか真冬となった

〇  ねじまわしは暗やみにあり家なかにわたしの知らない暗やみがある

〇  明日には忘れるほどのたやすさできみは何度もわたしを名付ける

〇  いっせいに鳥飛びたって柿の木の枝先はゆれ 晩年だった

〇  冷え込みのきびしい夜に満ちている水のにおいを全身で嗅ぐ

〇  変わらないことを数えなくなり嗽するうがい薬のうすむらさき色

〇  手を翳すほどのまぶしさプロティンの袋が置かれたままの道の辺    

「志野暁子第二歌集『つき みつる』」より

〇  蝕終へて月の明るき駅の広場 肩ぐるま高くこどもが通る

〇  一年生百五十人が遠足の列をゆき麒麟がじつと見おろしてをり

〇  膝折りて春の駱駝も老いふかし あはれ汚れて反芻(にれが)みやまず

〇 ぽつねんと車椅子あり かぐや姫昇天の夜のごとき満月

〇  塔のうへ星ひとつ出でいかるがは夕べの景に変りはじめぬ

〇  市制しきて失せし字(あざ)の名バス停の名に拾ひゆくふるさとに来て

〇  溝、段差、凹凸多し櫨紅葉見せむと車椅子押してゆく道

〇  雷雨きて出航遅るる桟橋の杭ひとつづつ海猫の占む

〇  ヒマラヤを越ゆる群れあり檻にゐて翔ばざるがあり 鶴に生まれて

〇  ねばならぬをすつぽり脱いだやうな空 鬚を剃りやることも覚えぬ

〇  幼子の帽子に止まる赤とんぼ翔ちてちひさき光体となる

〇  落葉降る銀杏並木を歩みをり視野のかぎりを引力満つる

〇  逢ひたさは在さぬふるさとの秋ふかし 藻を焼く烟風に揉まるる

〇  長生きは逆縁に遇ふと百歳の祖父が嘆きし 今日夫が言ふ

〇  水面いま楽鳴りてゐむあめんぼが群るる水の輪重なりやまず

〇  薄き翅畳むにも似てサフランの花閉ぢしのちながきゆふぐれ

〇  秋の日のなぜに短き サフランは地にわきいでて葉を持たず咲く

「永田和宏著『私の前衛短歌』」を読む

〇  いふほどもなき夕映にあしひきの山川呉服店かがやきつ  『詩歌變』所収

〇  山川呉服店破産してあかねさす昼や縹の帯の投売り  『不變律』所収

〇  あさもよし紀州新報第五面山川呉服店主密葬  『波瀾』所収

〇  青嵐ばさと商店街地図に山川呉服店消し去らる  『黄金律』所収

〇  山川呉服店未亡人ほろびずて生甲斐の草木染教室  『魔王』所収

〇  嵤域に白雨 山川呉服店累代の墓碑何ぞしたたる  『獻身』所収

〇  復活祭キャフェ「山川」の扉の前に洋犬「権兵衛」が寝そべって  (歌壇九十五年十月号)

〇  牛乳を飲むためにのみ帰り来て子はまた駈け出す炎天の道  増田美幸(南日歌壇・1992) 

〇  長男が一緒に住まなくなったこと猫たちももう気づいているか  同(同・2003) 

〇  「民衆を導く自由の女神」の絵の民衆Aに子は扮装する  同(同・2000) 

〇  逝きし夫のバックのなかに残りいし二つ穴あくテレフォンカード  玉利順子(同・1998)

〇  亡き夫の財布に残る札五枚ときおり借りてまた返しおく  野久尾清子(同・2001)

〇  あの日君はサングラスかけて待つてたよね回診の教授吹き出したつけ  山本ゆうこ(同・2005)

〇  事件あればアップで映る鋭利なる検察庁の庁の字の撥ね  鮫島逸男(同・1998)

〇  身を伸ばしようやく触るる互いの手日朝会談のテーブルの距離  山口龍子(同・2003) 

「西田美千子作『青いセーター』(第20回短歌研究新人賞受賞作)」より

〇  駆けている大地と空のさかい目が君のかたちに一〇〇メートル裂ける

〇  海のような青いセーター着たままで眠りはじめる彼の望郷

〇  河口には影絵あそびの浚渫船「泣く」と書きたき鳥たちの声

〇  音のない雨をみているバスの窓雨の匂いのする髪をして

〇  口笛を吹けぬわたしの生存をいかに風らに伝えるべきか

〇  お互いの視野から出てゆくときに銀の色して来たる地下鉄

〇  五月りんかくでしかない未来目つむりてなお空は青いが

〇  人々がもう振り向かぬグラウンドに水撒かれいて淡く立つ虹

〇  大陸を向いて位置する砂浜にわたしも砂のひとつぶとなる

〇  深鍋に今日はシチューを煮込みつつ明日と同じく平らかに暮らす

〇  鳥たちよ川面にうかぶまやかしの夕陽に翼焼かれつつ飛べ

〇  車にて運ばれて行く競走馬草原のないこの町を経て

〇  ただひとつ忠実である指をもてあざむきし娘の衣を縫う母

〇  伊豆の海に落とした腕輪陽をうけることもふたたびなく 永遠

〇  ローションを泡立つほどに振るけれど女に生まれし理由などない

〇  わたくしの針箱はさみなぜならば母とは別の生であるため

〇  口数も少なくなりし兄とわれ六人家族夜の食卓

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