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詩歌句誌面

読解なくして論評あらず。

「中西由起子歌集『夏燕』」を読む

〇  夏燕ひとたび行けばもう来ずと思う駅舎を低く飛びおり

〇  やわらかな曙やさしき夕茜 天は静かな姉妹を生みぬ

〇  子を連れた娘が駅にわれを待つゴム一本に髪を束ねて

〇  着るものはどうでもよくて穿き通すグレーのスカート制服めきぬ

〇  今日の雨冷たく降りて鳥籠へみずから戻るインコと私

〇  立秋の伸び放題の藤の蔓 吐く息大事吸う息大事

〇  枝の間に青き空見えさびしさの芯となりゆく花の老木

〇  たぶんどこかで繋がりおらん心臓とトマト畑の鋏の音と

〇  遺言書自分史戒名ととのえて酸素マスクに霧を吐く人

〇  万葉集巻五のなかば来て匂う三十二本並ぶしら梅

〇  美酒・男子(なんし)・うましき歌を伴いて巻五に咲ける白梅の花

〇  青空に昔のわれが棲んでいて時間は前にゆくのみならず

〇  キッチンのボールに二個の茄子泳ぎ何か覚束なき五月尽

〇  わたくしが少年ならば泣くだろう晩夏の来ている橋梁の下

〇  落武者のわれかもしれず遠望の城が小さな鳥影となる
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「高野岬第一歌集 『海に鳴る骨』」を読む

〇  天気雨ふるを鏡に見てをりぬベリーショートに髪切られつつ

〇  助手席から見てゐる空に飛行船が浮かんでゐたんだけれど言はない

〇  ワンピースが風に飛ばされないための棒として駅のホームに立てり

〇  ネクタイは太刀魚のごとひらめきて夫の灼けたる頸に巻きつく

〇  求めなくなつたからなのだ死んだ犬がその気配さへ消してしまつたのは

〇  我が犬を抱きゐしときの手触りをどのやうにして覚えておかむ

〇  常にゐし犬の存在うしなひて私達はもう喧嘩をしない

〇  コンチネンタルブレックファースト待つ我の背後を知らぬ香水の過ぐ

〇  冬の陽をかへすトングでウェイターがパンの一片載せてゆきたり

〇  栗鼠が鳴くことなども知る社を退きし君と住みゐるこの半島で

〇  また誰かが話し出すまで我ら皆卓の向かうの海を見てをり

〇  丸き石拾はむとして手にすれば磯の石みな小さき穴持つ

〇  喪の服の夫の背中に撒く塩が皺なき黒にはじかれて散る

〇  海にだけ淡き水色配されて夫の港の絵が卓にあり

〇  君の亡きあとも浜辺を歩くだらうその日も鷗が飛び立つだらう

〇  朝の堂に若き僧来て賽銭を米磨ぐやうに浚ひてゆきぬ

〇  楼上のランチの席から見下ろせば和田倉濠に柳けぶれる

〇  ベランダは仕切られながら次々と開く花火に手を叩き合ふ

〇  朝刊を配りつつゆくオートバイが夜の緊張を解きてまはれり

〇  青空に芯はあるかと目を凝らす 一体誰が死んだのだらう ?

〇  誘導灯またたく中を着陸す また東京が嘘ついてゐる

〇  天井の白みてゆけりこの朝がきのふにつづくけさであること

〇  都心から従ひて来て朝羽振る波を怖れし海といふ犬

〇  占星術の本を買ひしが最後なりブックス二宮閉店してをり

〇  ベランダの先の闇へと振り捨てし蛾がひらひらと昇りてゆけり

「西川啓子第一歌集『ガラス越しの海』」を読む

〇  伐りくれし葡萄の枝を鉢に挿す 京大農場わが街より消ゆ

〇  電線をひょいと上げるもバイトなりその下をゆく神輿の矛先

〇  点描で育ちゆく葉よ春楡のあわいに閉じてゆく空が見ゆ

〇  なだらかに底を見せたる泥の上を鷺は歩めり影揺らしつつ

〇  看護師に夜勤明けかと問われたる医師は小さきゴミ提げており

〇  窓の向こう藪の迫りてときおりに風とは違う枝の揺れあり

〇  水張田に揺らめくひかり区切られて影のようなる細き道あり

〇  扇の骨辿りしような水脈引きていく艘か見ゆひかり放つ海

〇  アンペイドワークばかりの10000日そら豆のスープきょうは作りぬ

〇  跳ね上がる泥土のように思いたり主婦にしてはと言われるたびに

〇  あいまいに厨に立ちて出汁を取る海に棲みいしものの中から

〇  父と夫の首締め来たるネクタイをほどきて作る座布団カバー

〇  冬のひかり閉じ込めたような柚子ジャムの瓶を並べて恍惚とせり

〇  原発を責める連作二作ありそれのみ読みて書棚に戻す

〇  いくたびもチェルノブイリを言いしかど核エネルギーに魅せられて子は

〇  辞めろとも帰れとも言えず「あのさぁ」と問う燃料棒の仕組みなど

〇  福島の桃あまた食みし夏ありき詫びたきような廉価のままに

〇  原子の灯と大きく書かれしEXPO70の夜の灯のなか昂ぶりて歩みぬ

〇  電池ばかり設計したという人の手触り感を子はうらやみぬ

〇  ぽくぽくと豆を煮ており階下より香り上りて母元気なり

〇  名前など記号と思えどわれの知らぬ戦前戦後を父は持ちたり

〇  夏至までのひかり溜めいる砂丘なり素足は砂の記憶を呼べり

〇  鎖骨ですと言われて拾う箸の先その肩に三日前に触れいき

〇  子の帰りしのちに凭れる椅子の背に温もりはまだ残りていたり

〇  わかるふりをせぬ人なりきキンポウゲのような眼をして首傾げたり

〇  辞めろとも帰れとも言えず「あのさぁ」と問う燃料棒の仕組みなど

〇  七夕の笹の香れる部屋に眠る子の子が三人あちこちを向く

〇  いつもより大きな月の照らし出す木香薔薇のあふれ出す道

〇  引き留められなかった日々のようにある剥がしそこねた布テープの跡

〇  風強き街に住みたる子の家にみどり児を抱くベランダに出て(水戸)

〇  鼻と口ぺちゃりと付ければ曇る窓 特急に子はつま先立ちぬ

〇  黒豆が皺なく炊けたと言うときの呪術師めきてははそはの母

〇  薬害の原告団に投げられし生卵にも触れし一節

〇  社史にのみ残りし社屋にただ一度父と入りたり半ドンの午後

〇  リクルートスーツ着なれてずぶずぶとうつつに入りゆくを見ており

〇  また一つ嘘ついて子は離れゆくリュックのように哀しみ背負って

〇  だれにでも抱かれるときは短くて代わる代わるに双子抱きあぐ

〇  いまだ子の仕事に躊躇い持つことを言いてその父挨拶を終える

〇  丹前の袖ほどくとき零れ落つ祖父の遺しし「いこい」の粉よ

「『真鍋美恵子全歌集 (1983年・沖積舎刊)』」を読む

〇  薔薇の刺のやうなる青き爪研ぎて出でゆけば猫は深夜のけもの

〇  蜥蜴のやうな指してスプーンをわが前に人があやつりてゐる

〇  宣教師の卓にぬぎゆきし手袋が魚の肌のやうに光れる

〇  量感のなべて希薄となれる午後酸ゆき木の実をわれは食みたり

〇  鳥の脚のやうな茎せる植物が密生したるくらき渓あり

〇  なめし皮の表のごとき海面が米穀倉庫の間より見ゆ

〇  鈎傷のあぎとに深くある魚を焼きをり長く火にかがまりて

〇  雛鳥の白き骨片がのこりたる皿あり湖に対ふ夜の卓

〇  短かき四肢もつ日本の女らが烏賊ほす写真はグラフにのれり

〇  堀り上げて盛られし土が濡れてゐるところもそのまま夜に入らんとす

〇  はびこりて毒だみが掩ひつくしたる湿土をぢかに圧しをる曇

〇  桃むく手美しければこの人も或はわれを裏切りゆかん

〇  谷に向く木小屋の厨人蔘の荷を解きをりて人蔘匂ふ

〇  ましろなるタイルの上に水湧きて熄まざる池が春日にあり

〇  夜おそく帰りし家に足洗ふくるぶし深く水に浸して

〇  自我青くきらめく少女夜の卓にありて切口匂ふペアーは

〇  洗濯機のなかにはげしく緋の布はめぐりをり深淵のごときまひるま

〇  強き酢を硝子の壜に入れたれば硝子は罌粟の茎より青し

〇  道端に家鴨のひなを売りてをりあひるの雛にも当れる秋日

〇  送電線のたるみし影が動かざる罌粟の畑のけしの花の上

〇  砂浜に牡蛎殻積めり牡蛎がらの山よりも低く燈ともせる家

〇  木もれ日が斑を置く畳貝の身のやうな冷たき耳して病めり

〇  拡声器の赤き塗料の日にひかり巡航船は港に入りくる

〇  潮のにほひの濃き夜とおもふ河岸倉の戸におろされし錠前ひかる

〇  温室の卓に誰かが置きゆきし針光りたる小さき磁石

〇  水涸れし池底にして石一つ起点の如く白く日に照る

〇  黄の色の扉うつくしく照りをれば直ちに外は断崖なるべし

〇  からだ熱きけものが崩るるごとく寝つその窓下は深淵なるべし

〇  エレベーターにて綿荷と共に上り来し男が鳥のやうなる顔せる

〇  製粉所の裏戸は山に向きをりて嘴赤き鳥を吊せり

〇  台風警報出でながら日の洩るる町血のにじむ鯨の肉売られゐる

〇  尖端恐怖症の友とゐて見てゐつ燃えんばかりの朱の空

〇  赤き星接近しくる夜にして限りなく甕の罌粟が水吸ふ

〇  汗ばみて覚めたる明(あした)窓下を過ぎゆく純粋の緋の消防車

〇  眠りゐし黒猫が起ちてゆきたればその下に繊くありたる亀裂

〇  疾走し過ぎたる青き自動車(くるま)ありて硬直したるごとき夜の道

〇  体臭の濃き男が竹笊を売りゆきてより速く昏るる日

〇  月のなかの斑点が濃く見ゆる宵もの吐きて来し雌猫の眠る

〇  くるぶしのいたいたしきまで白き娘が立ちをり山脈の襞深く見ゆ

〇  山鳥の脂肪濃き肉食みたれば脆きまですぐに身のぬくみくる

〇  蜥蜴たべし口なめずりてゐる猫とわれとありたり月照る畳

〇  みごもりて乳房のいまだ硬き猫しきりに青き蘭の葉を嚙む

〇  交尾期の犬らが山に猛りつつ鳴く夜は早く燭を細むる

〇  孵卵器に電流ながれつつありて無花果の葉の影黒き昼

〇  透明な硝子戸が極度の硬直を保ちつつ山上の夜あけは来る

〇  透明とわれのなりつつゆく如き睡りのなかに風の音する

〇  赤き色に鉄塔を人のぬりをりて塗料を滴らす灼けたる土に

〇  捕へたる蜘蛛をかまきりは食はんとす優位なるものの身の美しく

〇  われより抜けゆきしものがぬくぬくと育ちをり小豚とも杏の木ともなりて

〇  受身なるものの素直な態にして給油されゐる黄の車あり

〇  白きダリヤおもおもとして乳房のひかりをもてり山の畑に

〇  背の青く光る小蛇が這ひゆきしより岩肌のはげしき飢渇

〇  ま二つに氷塊切られゆくときに紫の炎となれる荒鋸

〇  そのかげに犠牲者あるはわが知れる祝宴に白き海老の肉切る

〇  蛇の頭に似る瓦斯コック並びゐる厨房の明るき深夜を見たり

〇  弾力をもてる革椅子のうしろには非常扉ある室に待ちをり

〇  血のにじみきたれるものをみな入れつ冷蔵庫のかがやく扉の面あり

〇  古き地図はがしし壁の空白が急速にひろがりゆく室にゐる

〇  八月のまひる音なき刻ありて瀑布のごとくかがやく階段

〇  ざくろの実にふかき亀裂は生れたらん夜の明け方を星座燃ゆれば

〇  エレベーターのてらてらと光る扉あり結氷よりも深き静止に

〇  濡れし旗落ちたるやうなひびきして朽ちし扉引けば朽ちし扉しまりつ

〇  固定せるもののはげしさ地下底にコンクリの柱くろぐろと立つ
  
〇  朽ちし井戸に今も棲めるという鯉の雪ふる夜は炎ゆらんその緋

〇  びつしよりと樹液に濡れし刃はを踏みて猫ゆけりそのけものの清さ

〇  目を病みて人は眠れり人参の畑にべつたりと空ある夕べ

〇  月のひかり明るき街に暴力の過ぎたるごとき鮮しさあり

〇  捨て身の如く眠る猫のゐて海は膨(ふく)らみを夕べ増しくる

〇  飴色の非常扉の外にある暗夜は直に海につづかん

〇  蘭の葉の光沢ふかみくる夜ふけ扉に満潮の海感じゐる

〇  音みちて雪はふりをり対ひゐる人に眼帯の翳ふかくなる

〇  まつ白き鉄塔が見ゆ酢の壜を割りたれば強く酢のにほふ窓

〇  静けさは森林よりも深くして硝子倉庫に硝子満ちゐる

〇  セメントのにほふ地下駅葱の束解きたるがごと若者らゐる

〇  鉄材置場におびただしき鉄積まれゐて酢のごとく青き夜が来てゐる

〇  八月のまひる音なき刻ありて瀑布のごとくかがやく階段

〇  停止せるエスカレーターの階段が鉄のひほひとなる夜を恐る

〇  一人ひとりは繭のごとくに孤独にて西日のさせるバスに揺らるる

〇  ひわ色の絹をかぎりなくひきいだす奇術師のその蛭のやうな指

〇  エスカレーターの階段がなまなましき鋼鉄の歯となりてゐる深夜を見たり

〇  古き井戸に一匹の鯉棲むと言へど見しことはなしその酷き緋を

〇  捕へたる蜘蛛をかまきりは食はんとす優位なるものの身の美しく

〇  受身なるものの素直な態にして給油されゐる黄の車あり

〇  平衡を保てるもののするどさに夜となりゆく湖はあり

〇  羊歯群の羊歯は切れ込みするどくて葉間より間なく闇を産みゐる

〇  うつくしき夜となるべし果実油の瓶におびただしき指紋つきゐて

「吉野弘詩集『北入曽』」より

       秋の傷


   奥さまがお有りのあの方と、私は歩いた
   川岸にひろがる丈高い葦の茂みを
   われ乍ら軽薄と思う冗談をふりまいて

   「気をつけないと傷つけますよ」
   あの方が、そうおっしゃった
   それは葦の葉の鋭い切っ先のことでしたが
   私は、こんなふうに聞きたかった
   「僕を信じすぎてはいけません」
   ──言うならば、何事かへの歯止め……
   私は首をすくめた「小説の読みすぎだわ!」

   葦の茂みをぬけると
   あの方は笑って手の甲の傷を私に見せた
   「君に注意したくせに僕が切られている」

   あの方をお誘いしたのは私だったのに
   私は傷を負わなかった
   あの日、私は傷がほしかった
   あの方と葦の茂みを歩いた確かな証拠に
 

「永田紅歌集『春の顕微鏡』」を読む

〇  これからを本番として 君は説く一点突破全面展開

〇  自らの専門を武器となすことに微かな後ろめたさはきざす

〇  若き日の糊しろ部分を生きている私よ走ってから考えよ

〇  タイミング違えて生きる 息つぎのようにときおり君を見かけて

〇  どんな人と聞かれて春になりゆくを 春は顕微鏡が明るい

〇  居心地のよき背中なり凭れても撫でても我にひらかれていて

〇  会うことも会わざることも偶然の飛沫のひとつ蜘蛛の巣ひかる

〇  戻りたきこの世とぞ身を震わせる墓石もあらむ桜が咲けば

〇  濾過してもあなたは残る 歳月に溶け込みすぎて分離できない

〇  学振(がくしん)が苦心、科研費書けん日、と言葉に遊ぶを息抜きとして

〇  みんないてよかったという葉洩れ日の声にはならぬ声がするなり

〇  嘘とわかるほどの時間のあらざらむこと思われてそを悲しみぬ

〇  いそいそと猫のケンカに顔を出す手に竹箒など持てる可笑しさ

〇  日中は無人となれる家なればしゃあないなあと家が留守居を

〇  猫ドアは内外(うちそと)に揺れ蝶番たのしかろうまた猫を通して  

〇  滲みやすきこころは窓に運ばるる 葉は葉のなかに水脈を持つ

〇  エクセルの数字がグラフとなるときに今日一日はかたちとなりぬ

〇  年上の人とうはやさし柚子胡椒の壺のふた開けこちらへよこす

〇  もういいや、と思えるまでのながきながき時のちからを物語りたる

〇  書かざればなかったことになる恋が下北沢の坂道を行く

〇  提案がなされし夜も我はまだ逃げることばかり考えていつ

〇  もとあったように整え去ることをポスドクは幾度繰り返すべし

〇  野の花の黄色き蘂をゆらしつつ悲しみは蜂が集めてくれる

〇  歩幅から老いてゆくのかコスモスが後姿をけぶらせて揺る

〇  大きな歌大きな歌と唱えつつ関節ゆるめるように作らむ

〇  母親を中心としてまわりたる家族にいつも猫がいること

〇  ひらがなに心が還りゆくような日々を重ねて泣きやすくなる

〇  生活が動き始めるもう下宿ではなく家は実体として

〇  起きてから食べむと置きし私の菓子パン食べてしまえり夫は

〇  おいしいものをおいしく食べていろいろなところへ行ってこの世と言わむ

〇  母のための婚ならずとも急ぎたり桜の季をよき時として

〇  みんないてよかったという葉漏れ日の声にはならぬ声がするなり

〇  母の辺ですごす七月八月は終わらないでほしい夏休みなり

〇  突然に雨を降らしぬ庭、家に あの迫力がすなわち母だ

〇  眠りいる母の産毛の後ろにはかがやく夏の庭がありたり

〇  立葵咲きのぼりきる夏の日に母の何かがわれに入り来ぬ

〇  空色はやさし 遺影を遠からずなんて若いと思う日がくる

〇  ああ君が遠いよ月夜 下敷きを挟んだままのノート硬くて

〇  先のことは考えないでおきましょう薬缶の取っ手ふきんで掴む

〇  いろいろなときにあなたを思うだろう庭には秋の花が来ている

〇  呆れてはまたいきいきと喜びて夫の無知を吹聴せむよ

〇  学生は短距離走でポスドクはマラソンだから夜は帰るよ

〇  鳥柱この世につづくまたの世のあるごとく空を捩じりていたり

〇  グーグルがホリデーロゴになっている日の夕暮れにクリックしたり

〇  今はなきガラスのシャーレ身と蓋を合わせるときのまるき重たさ

〇  味噌、醤油、使い終われば母の手の触れしものらを捨てねばならず

〇  こころなき言葉に一度落ち込んででもまあそんなものかと咳して

〇  通夜の朝評価委員が来るゆえに大学へ出てプレゼンをする

〇  逃げ水のようにとどかぬ年の差をぼんやり見つつ切符を買えり

〇  君には君の巻き戻せない時間軸 栞は何本あっても足りない

〇  ゆたかなるしっぽ思いて歩きおり不機嫌な人になりたくはなし

〇  王道をゆく感情と名を持たぬまま枝道に迷い入れると

〇  太りても痩せても悲しそののちの君を見かける会合などで

〇  大事な人はみな年上でこの庭に草の実つけて取り残されむ

〇  渡り鳥が磁石をもっているように遠く静かに分かってしまう

〇  強く願えと人は言いたり 自転車のあたまが重いときに思えり

〇  もっとながい時間があると思いいきいつだって母は生きていたのだから

〇  ある日ぱあっとおはじき飛んできらきらと降ってくるのは子どもだろうか

〇  あなたにはあなたの修羅場があったろう頭ごと撫でてしまえり好きで

〇  先ずトムがムーがあとから 順番というのはとても悲しかりけり

〇  両親にきみを会わせたあの冬の夜から安心が始まったのだ

〇  再沸騰ボタンを押せばこぽこぽと湯は応答し生き返りたり

〇  早春の井の頭線ひたすらに明るし過ぎてゆく梅林も

〇  転がりていたるボールをグラウンドに投げかえしおく土手の夕暮れ

〇  流氷に乗りてキツネの流さるる話にわれらかなしみてあり

〇  ジェンナーと書くべき欄にジェンダーとありて笑いて点はあたえず

〇  文章が凝り固まってきたころにほぐさむとして猫うらがえす

〇  出しかけし棺を部屋に戻したりはげしき雨は突然に来つ

〇  水流が私に添いて来るように思わるるまで自転車を漕ぐ

〇  甥姪は川辺の白き家に住む 櫂玲陽颯、熟語のごとし

〇  歳の差を思えば父母と異なれる時間の軸の夫婦とならむ

〇  家中の柱に頬を擦りつけることを覚えて飼い猫となる

〇  褒めたかりしが言葉をもたず別れたり白き花まわりたり落下するとき

〇  布団そのものが眠りているような完全な冬われは好きなり

〇  夕暮れがいちばんいけない 煮炊きして待ちいし人の心に近づく

〇  もう少しすれば時間ができるから そうやっていつも過ぎゆくものを

〇  釣り糸を垂れて涙を待つような秋の日があり冬の日となる

〇  町内を回覧板はまわるなり永田→田中→中川→川端

〇  流れ来し野良の顔立ち振る舞いを貴種流離譚のごとく楽しむ

〇  シラバスの重さなつかし学生が春のベンチで履修に悩む

〇  川幅のように思いてわたる道ゆうぐれは町の面が光る

〇  脂汗の冷えて寒気に変わりゆく 私の殺したマウスを思う

〇  眠ってしまいし時間悔いつつ冷蔵庫あければ林檎つやつやとせり

〇  黒塗りの車が停まり黒服の執事が迎えに来たらどうしよう
  

「藪内亮輔第一歌集『海蛇と珊瑚』」を読む

〇  傘をさす一瞬ひとはうつむいて雪にあかるき街へ出てゆく

〇  春のあめ底にとどかず田に降るを田螺はちさく闇を巻きをり

〇  わが肺にしづかな痛をおいてゆく冬の空気かあたたかくはく

〇  話はじめが静かなひととゐたりけりあさがおの裏のあはきあをいろ

〇  電車から駅へとわたる一瞬にうすきひかりとして雨は降る

〇  鉛筆を取り換へてまた書き出だす文字のほそさや冬に入りゆく

〇  花束の茎のぶんだけせり上がる花瓶の頸のあたりの水は

〇  雨はふる、降りながら降る 生きながら生きるやりかたを教へてください

〇  愛はつね逢ひをさびしくすることの雨の純銀に濡れてゐる花

〇  致死量の愛、其れはすなはち一〇ベクトル、もちろんわれも死に至るなり

〇  白鷲をつばさは漕いでゆきたりきあなたの死に間に合はざりき

〇  死の瞬間をゐられなかった なまなまと自転車に巻きつく泥とみづ

〇  鉄塔の向かうから来る雷雨かな民俗学の授業へ向かふ

〇  さうだよねむりだつたよね林檎からしづかにらせん剥いでゐる夜

〇  日々に眠りは鱗のやうにあるだらう稚き日にも死に近き日も

〇  みづの上に青鷺ひとつ歩めるを眼といふ水にうつすたまゆら

〇  鶏の唐揚げ(とりから)にレモンはかけて種付きのやつをきみらによそつてあげる

〇  頭蓋に蝶形骨をしのばせてわれら街ゆくときの霜月

〇  日々に眠りは鱗のやうにあるだらう稚き日にも死に近き日も

〇  幾筋か底に轍をしづめゐるにはたづみあり足裏は燃ゆ

〇  白鷺をつばさは漕いでゆきたりきあなたの死に間に合はざりき

〇  眼窩には雪はふらないそれなのに眼窩にみちる雪のひかりは

〇  川の面に雪は降りつつ或る雪はたまゆら水のうへをながるる

〇  わたしがつひにわたしで終はるかなしみも肯ふ。橋をいつぽん渡る。

〇  なかゆびを立ててゆき降る窓をみるそのやうに愛してゐた何もかも

〇  向かう側の雪をうつして窓がらす静かでゐるといふ力あり

〇  人ごとに祈るつよさの違ふこと噴水の影われを打てども

〇  樹のなかにすずしく鳥の満ちるとき夕景はみづから始まつて

〇  敗北はかくも静かであることのほの灯りして窓の辺の雪

〇  おしまひのティッシュペーパー引くときに指は内部の空もひけり

〇  死に近き人に馴れゆく日々のなか耳にしづかに鳴る魚がゐる

〇  桃ひとつ卓の上に割かむとす肉体といふ水牢あはれ

〇  十本の脚に五本の腕は生え蟹走りして来るんだ闇は

〇  詩は遊び? いやいや違ふ、かといって夕焼けは美しいたけぢやあ駄目だ

〇  君も私もクソムシでありそれでよく地平線まで星で星で星で

〇  おし花のかたちに雲がうかびをり諦めながら寄り(死ね)ゆくこころ

〇  われのいかりは本を投げ捨て鉛筆を投げ捨てつひにわれを投げ捨つ

〇  灰のやうに砕かれたこころであなたから最後に貰つたののしりをいとしむ

〇  寄りながら暗き言葉をうちかはす我らの肌で焼死せよ雪

〇  月の脚しづかにのびてゆきふるる菜のはな菜のはなみんな菜のはな

〇  それでゐてわたしはあなたをしなせるよ桜は落ちるときが炎だ

〇  この歌は岡井すぎると言はれをりほの暗き花の暗喩のあたり

〇  「もうちよつと自然詠したはうがいい」人だって自然なんだけどなあ

〇  はなざかり おそらくさうである道をあかりもなにもつけないで ゆく

〇  絶望が明るさを産み落とすまでわれ海蛇となり珊瑚咬む

古雑誌を読む(短歌・2019年6月号)

〇  お遍路で初めて受けたお接待おにぎりひとつが六腑に染みた  香川県 島田章平

 上掲の一首は、朝日歌壇や朝日俳壇でお馴染みの島田章平さんが角川俳壇に投稿されて、玉井清弘選の特選に選ばれた一首である。
 選者の玉井清弘氏の選評には、「遍路をすると『お接待』に遭遇する。金銭、食べものなどが無償で提供される。初めて『お接待』を受けた驚きは大きく、とまどうことが多いが、やがて『六腑』に染みわたり、次へと歩き出す気力となる。四国の遍路道にはこの風習が今も残っている。」とある。
 選者の玉井清弘氏の極めて適切を得た選評に対しては、これ以上、付け加える何物もありませんが、昨年の八月に、本作の作者の島田章平さんは、「蛇泳ぐ太平洋の源流を」というどデカいスケールの俳句を投稿なさり、高山選の首席入選作品として、紙面に掲載されていたことを私は記憶しています。
 その折り、今と比べたら比較にならない程の元気さであった私は、その入選作に、次のような、字数の多さだけが取り柄の鑑賞文を記したのでありました。以下、それをそのままに転載して、朝日歌壇以外の場所で島田章平作品と出逢った私の感激振りを証してみたいと思うのである。 

〇   蛇泳ぐ太平洋の源流を   (高松市)島田章平

 「太平洋の源流」とは、如何なる河川を指して謂うのでありましょうか?
 本句の作者は、瀬戸内海に面した香川県高松市の住人であり、地球規模の視点に立てば、瀬戸内海も太平洋の一部であるから、本句で謂う「太平洋の源流」とは、作者がお住いの香川県内を流域として瀬戸内海に注ぐ川の孰れかを指しているのかも知れません!
 「香東川」は、香川県中部を流れる香東川水系の本流で、二級河川。香川県木田郡三木町大字奥山の讃岐山脈高仙山が水源。
 「鴨部川」は、香川県さぬき市を流域とする二級水系およびその本流。水源を特定するのは困難であるが、四国八十八カ所最終の大窪寺付近で渓流を成している。
 「本津川」は、香川県中部を流れる本津川水系の二級河川。高松平野の始点である高松市香南町由佐の高松空港北側付近が水源とされている。
 「綾川」は、香川県中部を流れる綾川水系の本流で、二級河川。香川県下では最長の河川である。流域の多くは花崗岩から成り、 讃岐山脈最高峰の竜王山北麓付近が水源。
 「土器川」は、香川県仲多度郡まんのう町、及び、丸亀市を流れる香川県唯一の一級河川であり、讃岐山脈に位置する竜王山が水源。
 「高瀬川」は、香川県西部の三豊市を流れる二級河川高瀬川水系の本流。源流は三豊市高瀬町上麻にある大麻山。
 「財田川」は、香川県の三豊平野南部を流れる二級水系の本流。香川県で最大の流域面積を持ち、香川県仲多度郡まんのう町の東山峠付近が水源。
 以上の七河川は、香川県内に水源を.発し、香川県内を流域とする川であるが、その孰れもがスケール感に乏しく、本句の題材となった川とは到底思われません!
 また、これら七河川の源流に蛇が泳いでいたとしても、その生息環境の貧弱さからみて、せいぜい体長一メートル程度の青大将ぐらいが関の山と思われ、こうした側面から判断しても、本句は、上掲の七河川の光景に取材したものとは思われません。
 次に、本句の巨大なスケール感に相応しい河川を、八岐大蛇の末裔とも言える大蛇が泳ぐに相応しい巨大河川を太平洋に面した四国地方から探し出してみましょう。
 「吉野川」は、一級水系である吉野川水系の本川で、高知県および徳島県を流れる幹川流路延長194 km、流域面積3,750 km2の河川である。最長川幅は荒川の2,537 mに次いで広く、2,380 mである。日本三大暴れ川の一つとして数えられ、四国三郎の異名を持つ。愛媛県西条市と高知県本川村(現・いの町)に頂を有する瓶ヶ森(標高1896.2 m)より湧き出で、高知県吾川郡いの町の白猪谷を最源流とする。
 「四万十川」は、高知県の西部を流れる渡川水系の本川で一級河川 。全長196km、流域面積2186km2。四国内で最長の川で、流域面積も吉野川に次ぎ第2位となっている。本流に大規模なダムが建設されていないことから「日本最後の清流」、また柿田川・長良川と共.に「日本三大清流の一つ」と呼ばれ、高知県高岡郡津野町の不入山が水源。
 「仁淀川」は、愛媛県・高知県を流れる一級河川で、愛媛県内では面河川と呼ばれる。流域面積1,560km2、流路延長124km。吉野川・四万十川に次ぐ四国第三の河川で石鎚山が水源。
 「肱川」は、愛媛県の南予地方を流れる肱川水系の本流で、一級河川である。 鳥坂峠(愛媛県西予市宇和町久保)が水源。
 以上の四河川は、孰れも本句の題材になるに相応しいスケール感に満ちた一級河川であり、その水源は孰れも深山幽谷とも言うべき、人里から遠く離れた奥山の渓谷であるから、少し大袈裟に言えば、八岐大蛇の曽孫程度の大蛇が渓谷を泳いでいたとしても、まんざら嘘とは思われません。
 本句の作者・島田章平さんが、この度ご旅行なさり、ご自身の足を踏み入れられ、巨大な「蛇」が「泳ぐ」有様をご覧になったのは、上掲の巨大四河川中の孰れかの河川でありましょう!
 高山選の首席。
     面河渓に紅葉散り敷く秋は来ぬ大蛇の曽孫冬眠をせむ  鳥羽散歩
 更に大風呂敷を広げてみれば、中国大陸の揚子江や黄河、或いは、ボルネオ島のジャングルを縫って流れるカプアス川・マハカム川・バリト川・・ラジャン川なども太平洋に注ぐ超巨大河川であり、これらの超巨大河川の源流ならば、ネッシー級の大蛇がうようよ泳いでいたとしても、それほど不思議ではありません。
 要は、「本句の作者の島田章平さんが何処の地を旅行し、何処の川の源流に足を踏み入れたか?」という事でありますが、短歌や俳句を詠む事を楽しみとされている島田章平さんが、まさか、危険を冒して中国大陸の奥地やボルネオ島の密林の中に足を踏み入れるとは思われませんから、本句の取材源となった川は、「四国八十八ケ寺参詣の序でに立ち寄った四万十川か仁淀川あたりではないか?」と、私・鳥羽散歩には推測されるのである。 ⦅転載終り⦆

 事の序でに申し上げますが、私がこの拙い文章を記して、マイブログ「詩歌句誌面」に掲載してから数日後、作者の島田章平さんが、私のブログにコメントを寄せられ、「件の俳句は、同年の夏に、作者ご自身が、終活の一環として、四国八十八ヶ所巡礼をなさった折りの実体験に基づいての一句であり、句中の<太平洋の源流>とは、仁淀川を指すものである」との事でありました。
 その後、島田章平さんは、ご健康を損なわれ、ご入院などもやさったご様子でありますが、幸いに、さほどの事も無くても、元号が令和と改まった今年も亦、四国八十八ヶ所巡礼をなさっているものと推測されます。
 久方ぶりに島田章平さんの作品と出会い、すっかり興奮している私をお許し下さい。 

古雑誌を読む(短歌・2019年6月号)

第53回 迢空賞受賞作
     内藤明作 『薄明の窓』抄

〇  突つ立ちて葦吹く風を見てゐたり流され来たる朝のごとくに

〇  入り海といへど寄せ来る力あり水平線まで一途なる青

〇  言葉とは行く雲の影 わたつみにいま生まれたる水泡を思ふ

〇  手の甲に首の寝汗をぬぐひをりさを知らぬ中年のくび

〇  むかしむかし水を湛ふる星ありと祖母が語りし日の繰れ方

〇  存分に楽しみしゆゑ割れるのを待たずに捨てむ緑のグラス

〇  赤き緒に吊るされてゐる物体の隈をたどれば瓢簞となる

〇  伸びをして隣を見れば眼鏡なき猫の時間に秋の日は射す

〇  曖昧に私を路傍に立たしめて来るはずもなきバスを待ちをり

〇  化け物が赤き光にあふまでの楽しき時間を絵巻は収む  


〇  もしやわれ躁にてあらむか次々と安請け合ひを重ねきたりぬ

〇  痛む歯を道連れにして帰りゆく満月の夜 自転車を漕ぐ

〇  一人が喋り二人がうなづきて空気が変はる寝ては居られぬ

〇  愉しかる一日なりけり事どもの軽き重きを問はざりしゆゑ

〇  それぞれの猫に七癖あるもので雑誌の小口で爪研ぐ夢二

〇  壁を指し鼠が走るといふ人の言をうべなふ、ねずみがはしる

〇  ともかくも今日をあらむと開く扉ねぢけ心を捻ぢ伏せにして

〇  まだ少し時間があれば聴かむとす野の鳥のこゑ梢吹く風

〇  感情が内へ内へと吸ひこまれ身動きとれぬからだなるべし

〇  絶え絶えに闇の底よりひびき来る消音ピアノの鍵盤敲く音

〇  奥の歯に歯間ブラシを当ててをり真顔といふをつひに持たざる

〇  春の雪遠く降るらしケータイの着信ランプが点りて消えぬ

〇  天に向きはくれん開くところ過ぎこゑを聞きたし人間の声

〇  少しづつ形くづれてゆく雲かわれは見てをり眼の冴ゆるまで

〇  吉凶の間を生きゐて愉しかり灯火(ともしび)照らし自転車を漕ぐ

〇  夕鶴の一羽飛び立つまぼろしを二十二階の窓に追ひゆく

〇  五十代過ぎゆく早し明け方の腓返りに声をあげつつ

〇  夏草のやがて覆へる道ならむ近き記憶のかへることなし

〇  並木道銀杏の葉より落ちる雨ときおり傘を強く打ちたり

〇  決めかねるこころを持ちて雨の道歩けば鳥のさえずり聞こゆ

「花山周子第三歌集『林立』」を読む

〇  杉の伐採を雇用対策になさんとする麻生元首相の計画いかになりけん

〇  一石二鳥、否、一石五鳥くらいの鳥が落ち来る政策

〇  己が根を忘れ上へと伸びてゆく山のなだりに整然として

〇  国木なき日本にたびたひげ起こるとうスギを国木にせんという意志

〇  杉の根の軟弱さなど思いつつポケットに手を入れてバス待つ

〇  杉山に人は孤独に散らばって文明開化の音を聞くべし

〇  古河電工日光電気精銅所付属病院耳鼻科に患者急増せり

〇  ああ杉が林立していてこの国の険しさ暗く覆いつくせる

〇  春風に杉の樹冠は揉み合える戦にも似る交合のさま

〇  大量の花粉揺さぶり吐く杉の往生際は極めて悪し
 
〇  国民を涵養したる風景とわれはさもしく杉を見ている

〇  自らの下陰に降るひそけさの杉落葉 夏の季語なり

〇  約100℃の高温強制乾燥に杉が嘔吐せるべたべたのもの

〇  背負うほどの月日をもたず春霖に若木の杉はしんねりと立つ

〇  杉花粉少なき今年はるばると冷たき春の光は来たり

〇  かの懐かしき電信柱は杉なりき明治の都市に林立したり

〇  杉花粉に涙ぐむ人おのずから目に哀しみのともなうあわれ

〇  子供等が少国民でありし頃国民学校に少国民等唄う

〇  約100℃の高温強制乾燥に杉が嘔吐せるべたべたのもの

〇  昭和十九年、少国民歌として作られし「お山の杉の子」戦後、焼け跡ソングとなれり

〇  欧州に「貧者の外套」と呼ばしめて森あり森を人は糧とし

〇  遊覧船しまわれているみずうみにつぎたされつぎたされ空の青色

〇  彩雲の彩の光は2Hの鉛筆の芯ねかしつつ描く

〇  刈り立ての木の重たさの山肌にずっしりと倒るるまでの数秒

〇  千本松の木陰に猫がたむろしてくつろいでいる重い潮の香

〇  千代田線は常磐線に切り替わり背高泡立草に雨降る

〇  目黒川見下ろしているこの窓をこれから私はずっと見つめる

〇  カーテンのまだついていない窓の端に外に流れる生活を見る

〇  わが部屋にしまわれている白うさぎ白い睫に眸をしまう

〇  ライターの火を立たせつつ夏の夜の湿気を吸いし煙草を当てる

〇  紙風船が吹かれるほどの風に浮くさくらはなびら川は吸い寄す

〇  鼻の頭に汗をかきつつ願いとは遠いところで夏の匂いす

〇  瓦礫撤去されたるのちの真っ平ら日時計のように立つ人が居る

〇  大海に子供を釣りぬこの子供われが育てん楽しく育てん

〇  腕失いしマルスの像は失いし腕のつづきの創造をせり

〇  前髪を切り揃えゆくさりさりと鋏の音を目を閉じて聞く

〇  老いてなおうさぎは白きままにして一反木綿のごとくのびおり

〇  わが背骨、立派な骨と褒められて納得がいくわけもなく冬

〇   「身体のしんそこまで冷えること。そういう感じの寒さ。」底冷え

〇  いい事が飴玉のように在ればいい春に吹かれつつ漕げり自転車

〇  雌日芝が露で光っている道に風が渡って露ちらしたり

〇  圧倒的空の広さに驚けりばら撒かれたようにカモメが飛ぶよ

〇  海底より持ち上げられたこのへどろアパート二階の床に持ち上ぐ

〇  簡単に手は放されて手は泣けり生きているのが厭だと泣けり

〇  梨のつぶてのかなしみの梨手に持ちて十月四日の朝は明けたり

〇  ともだちが捨ててゆきたるレシートを財布にしまう確定申告のため

〇  がらんどうに冬が来ている屋上に蒲団かつぎて蒲団を干さん

〇  屋根のみがかたちのこして朝光を反射している海のほうに

〇  瓦礫を見んと顔あげるとき海風は向かい風なり目に瓦礫入る

〇  もう秋は鼻の先まで飛んで来てトンボのように静止している

〇  放り出されてしまったようなわがからだ冬の日差しを吸って軽いな

〇  一斉に蟬の鳴き出す時刻あり蒲団の中に目を開けて聞く

〇  凧みたいな友だち連れて街をゆく風吹けば高く揚がる友だち

〇  家、家、家ってなんだろう電気、ガス、水道、物が詰まって、人、家族

〇  ウミネコが背後に飛んでニュースキャスターは向こう側からあちら側まで放射能が、瓦礫が、と

〇  いつか行かんと思いいし町なりしが町は消えてしまいたりしが行かん

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