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archive: 2019年10月

古雑誌を読む(『かりん』九月号)

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〇  山姥の上路の里に出づといふ猪のこと思ひて悩む    馬場あき子 作中の「上路の里」、即ち、〝新潟県糸魚川氏大字上路〟は、謡曲『山姥』の舞台とされている土地である。 その「上路の里」」に限らず、近年、糸魚川市全域に猪のみならず、日本猿・月の輪熊・ハクビシン・カラス等の鳥獣が人目も憚らず白昼出没し、農作物被害及び人的被害が多発している、との事。 馬場あき子氏と言えば、人も知る、歌壇切っての能楽通...

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「小池光第一歌集『バルサの翼』」を読む

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〇  雪に傘、あはれむやみにあかるくて生きて負ふ苦をわれはうたがふ〇  稚き桃ほのかに揺れゐる瞑れば時のはざまに泉のごとしも〇  宙に置く桃ひとつ夜をささふべし帰るべしわが微熱のあはひ〇  暑のひきしあかつき闇に浮かびつつ白桃ひとつ脈打つらしき〇  したたれる桃のおもみを掌に継げり空翔ぶこゑはいましがた消ゆ〇  桜桃よ皿にあふれてこぼれたるこのひとつぶの眼恋ほしも〇  溶血の空隈なくてさくら降る日...

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「小池光第十歌集『梨の花』」を再読する

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〇  黒雲のしたに梨の花咲きてをりいまだにつづく昭和の如く〇  目をあけてしばたたきしばしわが顔を見るがにしたりこの日の母は〇  「終身」まで預かりくるる病院へ母をうつせり秋晴れの日に〇  おもひ出づるまでに遠くに母ありて週にいちどをわが訪へるのみ〇  パンダの縫ひぐるみひしと抱きしめて百四歳の母の誕生日〇  病院庭の満開のさくら見てゐたり雨にぬれてゐる病院さくら〇  ゆくりなくおもひいでたりフォ...

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「小池光第七歌集『時のめぐりに』」を読む

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〇  庭椅子のカンヴァス席に雨みづはたまりてゐたり朝はさびしく〇  操觚者を父にもちたる運命にものを書くむすめ書かざる娘〇  「子供より親が大事、と思ひたい」さう、子機よりも親機が大事〇  忽然と打てなくなりしイチローをわが身の上に重ぬるこころ〇  馬の名の「チカテツ」にわれおどろけば「ヒコーキグモ」に更に驚く〇  万華鏡におほき熊ん蜂閉ぢこめて見むとしたれどいまに見るなし〇  弥縫策にすぎぬこと...

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山中智恵子第十五歌集『玉蜻』(抄)

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〇  湯の峰は空よりゆかむ十津川のあなや吊り橋 空よりゆかむ〇  今日白露 つゆのたよりにいふべくは萩叢越えてゆきしものあり〇  あかつきをむつなみすばる西に入り星の出入の風吹きわたる〇  春さらばきみとつかふか羽子板星 空の真中にかがやきそめぬ〇  ひめやかに秋霖いつか雨林霖 老いのはてなる虹の夢はも〇  <泥坊消えて雨の日青し>と附けにけむ桃青若くわれは老いたり〇  わが心覚ましてゐるはくきや...

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「今野寿美第九歌集『雪占』」を読む

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〇  跳ね駒、種播き爺の雪占に謎なくて春 大地励ます〇  愛すべき冥王星の小ささを誰も言はなくなりけり誰も〇  海の底が見えるまで引いた水のことこどもの目にも世界壊れき 〇  をさなごがきちんと静止するすがた放射線量測らるるため 〇  東京のさくらほころぶ<その日>からもう三週間と思ふその日に 〇  やりすごす春にあらねばこきざみにいかにも耐へてゐるさるすべり〇  ただ笑ふだけではなくて春の山 のた...

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「和嶋勝利第四歌集『うたとり』」を読む

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〇  平成は昭和の二日酔ひのごと無為の時間に出口が見えぬ〇  葷酒とふ楽しきことはやめられず味噌をつけては食むエシャロット〇  人の名は時代をうつすものなれば勝たねばならぬ戦争なれば〇  にんげんの必死のすがた見せながら25メートル子は完泳す〇  福島泰樹みたいと妻に疎まれて中折れ帽子もそれつきりなり〇  ひいやりと朝の空気は黙しをり やあ樅の木よまた会ひに来た〇  タラップを降り来る四人の法被に...

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「栗木京子第三歌集『綺羅』」を拾い読みする

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〇  親しげな体温持ちてすり寄れる鬱こそわれの新しき綺羅〇  噴水の秀先をぬらす雨足の昏さかゆふべ子を呼ぶわが声〇  フレミングの左手の法則教へむと子の手をとれば親指ほそし 〇  並びゐるドアというドアわづかづつ反る気遠さで雨のマンション〇  入口に夫を待たせて靴を買ふ降誕祭の電飾うつくし〇  人生はたのしと胸にくり返す文章問題解けぬ子とゐて〇  子に送る母の声援グランドに谺せり わが子だけが大切...

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「栗木京子第二歌集『中庭(パティオ)』」を拾い読みする

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○  扉の奥にうつくしき妻ひとりづつ蔵はれて医師公舎の昼闌け○  女らは中庭につどひ風に告ぐ鳥籠のなかの情事のことなど○  天敵をもたぬ妻たち昼下がりの茶房に語る舌かわくまで○  庇護されて生くるはたのし笹の葉に魚のかたちの短冊むすぶ○  やすやすと抱かれてしまふ女をり体温もたぬ劇画のなかに○  粉砂糖ひとさじ掬ひわたくしに足りないものは何ですかと問ふ○  茹でし黄身の周りわづかに緑色帯ぶるほどの羞恥か...

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「小島ゆかり第十三歌集『馬上』(現代短歌社刊・2016年)」を読む

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〇  いま湧けるこのあたたかき感情は要注意、また思ひ出がくる〇  五十代など小学児童と人言へり生きがたきかな小学児童〇  おろしたてのしろい牛乳石鹸のにほひのやうな冬はもうなし〇  空港の夜景かなしくうつくしく全力で走る今際のちちへ〇  飛ぶいのち泳ぐいのちの恋しけれ古びゆくわが足は歩めり〇  はるかなるそのふるさとのゆたかなる海のちからのねむりを君に〇  悲しみを言はぬ人にてつねのごと神保町をわ...

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