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詩歌句誌面

読解なくして論評あらず。

「今週の『朝日俳壇』」より  拙い文章をお読みいただきまして真に有難うございました。新年も宜しくお願い致します。

     長谷川櫂選

○  冬銀河中村哲に終はり無し  (筑紫野市)二宮正博

 悠久極まりない冬の銀河から連想されるのは、アフガンの砂漠に水路を掘って水を導こうとした中村哲医師の崇高なる事業とその境涯なのである。
     井戸掘るや中村哲氏逝きてなほ  鳥羽散歩


○  十二月八日毎年二歳かな  (鹿児島市)青野迦葉

  「12月8日午前零時を期して戦闘行動を開始せよ」という意味の暗号電報「ニイタカヤマノボレ1208」が、その頃、千葉県の船橋に在った、海軍無線電信所から送信され、戦艦アリゾナ等戦艦11隻を撃沈、400機近くの航空機を破壊した後、直ちに攻撃の成功を告げる「トラトラトラ」という暗号文が打電された。
 1941(昭和16)年12月8日午前3時19分(現地時間7日午前7時49分)、日本軍がハワイ・オアフ島・真珠湾のアメリカ軍基地を奇襲攻撃し、三年六ケ月に及ぶ対米英戦(太平洋戦争)の火蓋が切られたのである。
 この奇襲作戦(通称・真珠湾攻撃)は、本来、米国の首都・ワシントンで、対米交渉をしていた野村・来栖の両大使が米国側に最後通牒を手渡してから開始することになっていたのであったが、最後通牒の文書作成に時間がかかったために奇襲攻撃となってしまった、と言われているが、その真相は今となっては分かりません。
 本作の作者・青野迦葉さんは、開戦時二歳であったのであり、その後、未だに二歳時の記憶から解放されていないのでありましょう。
     開戦日 吾の二歳の冬なりき  鳥羽散歩


○  冬の蜂てのひらに来て動かざる  (川越市)大野宥之介

 冬蜂を季語にした名句は十指に余るが、その極め付きは、村上鬼城作の「冬蜂の死に所なく歩きけりの」でありましょう。
 で、本句も亦、村上鬼城作の同工異曲であっても、そのレベルには遙かに及ばないものと思われます。
     冬の蜂巣に籠りゐて働かず  鳥羽散歩
     冬蜂の如く籠りて選句せりけふ猪の歳の大晦日なり  鳥羽散歩


○  また一人消して木枯去りゆけり  (オランダ)モーレンカンプふゆこ

 オランダ産の木枯らしは人間を吹き飛ばしてこの世から消してしまう程にも強く激しく吹くのでありましょうか?(なんちゃったりして、誤魔化しました!)
     また一人木枯らし詠みて入選す  鳥羽散歩


○  マスクしてまなこますます無遠慮に  (稲城市)日原正彦

 女性の貌をじろじろ見たいだけの理由でマスクを掛ける中年男性が車内に居たりしてね!
     マスクして醜き貌を隠したり  鳥羽散歩
     マスクして邪悪な魂胆隠したり


○  しやつくりは止まらず雪は降り止まず  (青森市)小山内豊彦

 「止まらず」と「降り止まず」との繰り返しだけが取り柄の一首であり、しゃっくりが止まらない事と、雪が降り止まない事との間には何の関連性もありません。
 でも、こんな言葉遊びめいた短歌が、ごくたまに入選するのも宜しいかと思われます。
     幼くて豊彦未だ佳句詠めず  鳥羽散歩


○  冬うらら猫のしてゐる膝枕  (大村市)鍋岡忠利

 彼はもう死んでしまったのかしら?
 ふた昔ほど前に、田山雅充という冴えない歌手が居て、「春うらら」というフォークソング紛いの歌でヒットしたのは良かったのですが、ヒット曲と言ったらそれっきりで、間も無く消えてしまいました!

  みぞれ混じりの春の宵
  二人炬燵にくるまって
  触れ合う素足がほてりほてり
  誘いかけよか待ってよか
      さてさてトランプ占いは
      ならぬ悲恋と出て来たよ
      ここで煙草をブカリプカリ
      君は目がしら赤くして
  窓を誰かが叩いてる
  君はこわごわ覗き込み
  薬缶煮立ってカタリカタリ
  笑い転げて腕の中
       ああ……ああ 春うらら
       ああ……ああ 溶け合って
  まだまだ小さい君の胸
  僕の手のひら大きいよ
  比べてみようかそろりそろり
  君は耳たぶ赤くして
       ああ……ああ 春うらら
       ああ……ああ 溶け合って
  耳を澄ませば風に乗り
  街は祭りの初稽古
  浮かれ囃子がひゃらりひゃらり
      今夜もお蒲団 一組で
      君と僕とで抱き合えば
      冷たいと肌もポカリポカリ
      二人もいちど夢の国
  ああ……ああ 春うらら
  闇の中に漂う二人
  ああ……ああ 溶け合って
  朝の来るのも忘れそう
  ああ……ああ……    最首としみつ、中山綴…作詞 田山雅充…作曲 「春うらら」

     「春うらら」田山雅充それっきり、それっきりでだね?それっきりです!  鳥羽散歩


○  落された巣のあたり飛ぶ冬の蜂  (豊岡市)山田耕治

 そんな場面を、つい先日、私も目にしました!
 蜂の奴らは、落とされても尚且つ籠っている温かさに魅かれて、自分たちの古巣である巣を容易に棄て切れなかったみたいでした。
     落とされてなほかつ蜂め巣を出でず  鳥羽散歩


○  片付けて一人ゐるなり冬の家  (久喜市)三餘正孝

 文句なしの傑作!
 独り身の身体全体が、ぞくぞくとした寒さに包まれるような感覚です。
     片付けて家出の妻の帰宅待つ  鳥羽散歩


○  白鳥の来て華やかな町となり  (姫路市)黒田千賀子

 白一色の「白鳥」が飛来する事に因って「華やかな町」となり得るのかしら?
 例えば、北東北で「白鳥の来る町、暴力団の来ない町」をスローガンとして、白鳥が飛来する冬季には多くの観光客を集めていた<旧・十文字町(現在は横手市に吸収合併)>は、<清潔で美しい町>ではあったが、決して<華やかな町>ではなかった。
 この点に就いては、本作の作者と一般認識との間には大きな隔たりがありましょう。
 例えば、「黒田千賀子」という人名からは、<堅実で健康で頭脳明晰な女性像>が齎されますが、決して<華やかで社交的でちゃらちゃらした女性像>は齎されません!
 国宝の白鷺城が在って、書写山・円教寺が在って、白鳥が飛来する町である姫路市!
 いつの日にか素晴らしい短歌をお詠みになられるはずの貴女、黒田千賀子さんがお住いになっていらっしゃる町である姫路市!
 私の認識しているところに拠りますと、兵庫県姫路市は、決して決して、「白鳥が来て華やかな町」になったりはしませんでしたし、決して決して、「白鳥が来て華やかな町」になったりしてはいけないのです!!

 今は昔、和泉式部がむすめ、小式部内侍失せにければ、その子どもを見て、式部、
   とどめ置きて誰を哀れと思ふらん子はまさりけり子はまさらなん
 また、書写の聖の御もとへ
   暗きより暗き道にぞ入ぬべきはるかに照らせ山の端の月
 と詠み奉りたりければ、御返事に袈裟をぞ遣はしたりける。
 病づきて失せんとしける日、その袈裟をぞ着たりける。
 歌の徳に後世も助かりけんと、目出度きことなり。

     白鷺の白さに加へ更にまた白さ増したり白鳥の来て  鳥羽散歩
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「今週の『朝日俳壇』」より  明かり障子の前に立ち、自らの貧しい心を映してみたまえ    山が泣く山に合はせて海も泣く霜の降る夜は枕抱き寝む

     大串章選

○  山鳴りに海鳴りまじる霜夜かな  (霧島市)久野茂樹

 本句の作者・久野茂樹さんがお住いの鹿児島県霧島市は、前方に錦江湾を望み、背後に霧島連峰を控えた、海も近く、山にも近い、景勝の地である。
 季節が深まり行き、霜が降りる頃ともなれば、「山鳴りに海鳴り」が交って、海と山との奏でる交響曲を聴いてるような思いがする一夜も在り得ましょうか!

     花は霧島 煙草は国分 
     燃えて上がるは 桜島
     雨は降らんのに 草牟田川濁る 
     伊敷原良(いしきはらら)の化粧の水
     見えた見えたよ 松原ごしに 
     丸に十字の 帆が見えた
     おけさ働け 来年の春は 
     とのじょ持たせる よか青年(にせ)を
     伊敷原良の 巻揚の髪を 
     髪を結うたなら なおよかろ
     雨の降る夜は おじゃんなと言うたに 
     濡れておじゃれば なお可愛い
     桜島には 霞がかかる 
     私ゃ貴方に 気がかかる
     この地去っても 夢路に通う 
     磯の浜風  桜島
     抱いても寝もせず 暇もくれず 
     つなぎ舟かよ わしが身は
     月のちょっと出を 夜明けと思うて 
     主を帰して 気にかかる
     薩摩西郷さんは 世界の偉人 
     国のためなら 死ぬと言うた
     可愛がられて 寝た夜もござる 
     泣いて明かした 夜もござる

                           雲にそびえる高千穂の
                              高根おろしに 草も木も
                                なびきふしけん 大御代を
                                  仰ぐ今日こそ 楽しけれ

      山が泣く山に合はせて海も泣く霜の降る夜は枕抱き寝む 鳥羽散歩
     

○  猪も横断歩道渡りけり  (川越市)松本良子

 今年は熊の食する団栗や山栗の出来が宜しくなくて、飢えた熊が都市の住宅地に出没しているとの事でありますから、彩の国も武蔵野台地の北東端に位置する、武蔵国入間郡川越ともなれば、猪やニホンザルが住宅街に出没するのも当然のことでありましょう。
 本作の作者は、其処の辺りの事情をよく理解された上で、「猪も横断歩道渡りけり」などと、澄まし顔してお詠みになられていらっしゃいますが、これこそはまさしく、埼玉県警の警察官や保健所の野獣捕獲要員や消防署員らが総動員されて、その対策に当るべき緊急事態なのでありましょう。
 「猪」という秋の季語を巧みに用いて、冬近い川越市の住宅地の光景を詠んだ佳句。
 恐怖するべき事態に臨んで、それをよくユーモラスな句に変換し得た作品である。
      あと二日残り二日の干支なれば小京都にも出でます猪  鳥羽散歩
      川越は薩摩芋の名産地 獣ら出でまし畑を荒らす


○  冬木立電飾まとひ変身す  (岡山市)小林悦子

 毎年、十二月ともなれば、クリスマスや商店街の歳末大売り出しとあって、街路樹や駅前の小公園の欅の冬木立などが、煌びやかな「電飾」を全身に纏って「変身」するのである。
 私は、昨日の昼、ささやかな買い物をするべく最寄り駅の新百合ヶ丘駅前まで、痛む足を運びましたが、LED電球の普及が急速度になった結果でありましょうが、新百合ヶ丘駅に至る舗道沿いの電飾の色彩や電球の数が、数年前までとは、その規模が明らかに異なっているのでありました。
 時恰も、石炭や石油などの化石燃料に依存した、我が国の電力事情が国際的に問題視されています。
 また、我が国の悪辣極まりない安倍政権は、国民の眼を欺いて、既に使い古した原子力発電所の再稼働の機会を虎視眈々と狙っているのが現状であります。
 こうした現況にあっては、私たち日本国民は、LED電球の発する妖艶な光をただ単に安閑として眺めているだけではいけません。
     蹶起せよ!汝ら総員蹶起して、LEDの捕獲に当れ!  鳥羽散歩


○  静寂や白鳥黒鳥相寄らず  (ドイツ)ハルツォーク洋子

 鬱蒼とした黒森と、焦げ茶と赤と黄色の三色旗に囲まれた、ドイツ連邦共和国の繁栄と静寂の中にあっては、然しもの白鳥や黒鳥たちも接触欲が抑制されるものと思われて、「白鳥黒鳥相寄らず」という穏やかなる現象が生じるのでありましょうか?
     黒鳥は悪漢ならむ白鳥の隙をうかがい蹂躙せむとす  鳥羽散歩


○  煤逃げの沼三周し戻りけり  (川越市)大野宥之介

 本作の作者・大野宥之介さんも亦、松本良子さんと同様に、彼の干支のイノシシどもが整然として横断歩道を渡り、サラリーマン家庭の家屋に餌を漁りに出没するとかと聞く、彩の国は川越市にお住いの方である。
 ところで、この際、隠し立てする事なく告白致しますが、寡聞にして、私・鳥羽散歩は、今日の今日まで、俳句の冬の季語として「煤逃げ」という風流なる言葉が存在する事を存じ上げませんでした。
 「煤逃げ」とは、「煤払いのとき、足手まといと煤を免れるために別室にこもったり(煤籠りというようです)外出すること」であるとか!
 私の生家でも年も押し迫った十二月の半ばに煤払いをする習慣がありましたが、そうした折りには、役立たずの私でありますれば、専ら「煤逃げ」の役割を演じていたに違いありません。
 「煤逃げの沼三周し戻りけり」とありますが、本作の作者め大野宥之介さんも亦、私と同様に役立たずであると推測されますので、年に一度の煤払いの折りには、専ら「煤逃げ」の役割を任じられていらしたのでありましょうか?
 それはともかくとして、この際、私は、作中の「沼三周し」に少しく拘ってみたいと思います。
 川越市近郊の「沼」と言えば、言わずと知れた「伊佐沼」でありましょう。
 ネット辞書「ウイキペディア」の記するところに拠ると、「伊佐沼」は、「埼玉県川越市の東部に位置し、南北が約1300mおよび東西が約300mほどの沼」であり、「自然沼としては埼玉県内最大、関東地方でも印旛沼に次ぐ広さである。南北朝時代の文和年間に古尾谷氏の家臣・伊佐氏が沼を浄化して溜池にしたとされ、以来、伊佐沼と呼ばれるようになった。戦前までは現在の倍の広さがあったが、食糧増産のため干拓が行われ、面積が減少した。昭和初期までは新河岸川の源流とされていたが、河川改修後には、旧・赤間川が新河岸川の源流となり、伊佐沼は現在は新河岸川の支流である九十川の源流となっている。赤間川分断のため主な流入河川が無くなった沼には伊佐沼代用水路が流入し、入間川から導水する。四季を通してヘラブナ・マブナ・コイなどの釣りが楽しめる。春先には桜並木、6月下旬から7月初旬には川越蓮の会が復活させた古代蓮の花が見頃となる。またかつては川越電気鉄道の沼端駅があり、伊佐沼の湖岸に路線があり電車が走っていた 」とか!
 この説明に拠ると、件の伊佐沼の周囲は、「1300×2+300×2=3200メートル」という事になり、短脚を以て知られた、大野宥之介氏が、仮に分速100mで歩行されたとしたならば、「3200÷1=3200(秒)」となり、「3200÷60=53、333………(分)」という循環小数になりましょうし、そして、53,333秒は、ほぼ一時間と看做して宜しいかと思われますから、本作の作者・大野宥之介氏宅の煤払いに要する時間は、ほぼ一時間という事に相成りましょうか!
     煤払いしていた人の員数を無視した計算であること忘れるな  鳥羽散歩


○  信州の寒さをまとひ友来る  (深谷市)足立弘

 「信州」と言えば、先ず「寒い」の一言に尽きましょう!
 作中の「友」の身体には、「信州の寒さ」が纏い着いていたのでありましょう。
      ざざ虫と蜂の子・蝗の佃煮を後生大事に抱えて友来  鳥羽散歩
      御馳走は深谷葱をどっさりと入れたすき焼き肉は少々


○  夜廻りの町の細道知り尽くす  (大阪市)今井文雄

 夜廻りに限らず、地廻りも亦、町の細道の隅々まで知り尽くしていて、しょ場代集めに一所懸命だとか?
      夜回りが空き巣狙いに早変わり金品盗む事件が絶えない  鳥羽散歩


○  一日のしづかに暮れてゆく障子  (八代市)山下しげ人

 「障子」のことを、いにしへは<明かり障子>と謂った。
 その<明かり障子>の前に立っていると、何故なのか、一日が静かに暮れてような気がします。
 何故なのかしらね?
        明かり障子の前に立ち、自らの貧しい心を映してみたまえ  鳥羽散歩


○  埋火や大事な一語忘れたる  (尼崎市)ほりもとちか

    埋火も消ゆや涙の煮ゆる音     松尾芭蕉 「曠野」
    埋火や壁には客の影ぼうし     松尾芭蕉 「続猿蓑」
    埋火や終には煮ゆる鍋のもの    与謝蕪村 「鏡の華」
    埋火の夢やはかなき事ばかり    正岡子規 「子規句集」
    埋火や煙草を探る枕もと        寺田寅彦 「寺田寅彦全集」
    埋火の手応へもなき火箸かな     星野立子「春雷」
    埋火や客去ぬるほどに風の音     富田木歩 「定本木歩句集」
    埋火や世をくつがへす謀りごと     長谷川櫂 「初雁」
 上掲の八句は、いずれも、冬の季語「埋火」を用いた名句であるが、そうした名句揃いの「埋火」の句の中に在って、天明の俳句中興の祖・与謝蕪村には、是を季語として用いた名句が多くので、それらを以下に提示しよう。
    うずみ火や我かくれ家も雪の中    与謝蕪村
    埋火も我名をかくすよすが哉
    埋火もきゆやなみだの烹る音
    埋火やありとは見えて母の側
    埋火や春に減りゆく夜やいくつ
       埋め火にあと幾日の命やと問ひ掛けたるも応へざるのみ  鳥羽散歩


○  近頃は人それぞれの寒さかな  (愛西市)小川弘

 近頃は人の服装も様様でありますれば、冬の寒さも亦、各人各様の寒さでありましょうか。
     今朝ほどは人一様に寒からむ  鳥羽散歩

「今週の『朝日俳壇』」より  武満も音で静寂醸せずに和楽器の力を借りただけ

    高山れおな選

○  冬夕焼け浴びて来し蝶欲しくなる  (埼玉県寄居町)水野勝浩

 選評に「水野さん、原句の上五は<夕焼けを>。蝶=春、夕焼け=夏で季が曖昧なので右の通り改めた。<欲しくなる>に風狂の詩情あり」と在り。明らかに過大評価である。
     七億円含む連番超欲しく貯金叩いて十枚買った  鳥羽散歩


○  冬茜に染まず満月昇りけり  (富士宮市)高橋政光

 冬の西茜空に充分に抗し得るほどの冬月の澄み切った白さへの讃迎でありましょう。
     富士宮焼きそばレシピ不安定にしてなほ且つ高値なりき  鳥羽散歩


○  ツイッター・LINE・インスタ近松忌  (川越市)渡邉隆

 陰暦の十一月二十二日は、三拍子揃った近松門左衛門忌である。
     近松忌虚実皮膜の論深く吾ら如きは近寄り難し  鳥羽散歩


○  凍土を緑に変へる男逝き  (松阪市)石井治

 俳句で中村哲氏への悼句とはまさかとは思ったが、案に相違してその眞逆なり!
     辺野古の海土砂で埋める男逝け!彼の配下の某も逝け!  鳥羽散歩


○  ノヴェンバー静寂は音の結晶体  (宇城市)光永金司

 要するに、平家琵琶と尺八の魅力に降参しただけの事である。

 平曲を未だ超えざるノヴェンバー・ステップス作曲武満徹  鳥羽散歩
 武満も音で静寂醸せずに和楽器の力を借りただけ


○  容赦なき妻の散髪木の葉髪  (広島市)谷脇篤

 細君散髪屋の容赦の無さは、私が人一倍も三倍も知悉して居りまする!
 なにしろ、結婚以後、私は街場の散髪屋に足を運んだ事はありませんからね!
    容赦せず鬚切り落とすやら千切るやら妻の散髪痛くてたまらん  鳥羽散歩


○  顔見世や目玉大きも芸のうち  (北本市)萩原行博

 「目玉大き」こそはまさしく「芸のうち」でありましょう。
     仁左衛門、藤十郎に幸四郎いずれ劣らぬ大顔ばかり  鳥羽散歩


○  メルヘンの小さき入口かまくらに  (玉野市)勝村博

 ○手市のかまくらにはメルヘンもなんかこれっぽっちもありません!
 在るのは、破綻寸前の市財政と「山と川のある町」としての見栄と市民の生活の困窮だけである。
 「寄ってたんせ!お神酒こ飲んでたんせ!」なんちゃって小遣い稼ぎの横手のかまくら  鳥羽散歩


○  語るよに賀状認む一日かな  (大阪市)森本節子

 お歳が然らしむるのでありましょうか?
 斯く申す、私・鳥羽散歩も、祭文を語るが如くにこの拙い文章を認めているのであります。
     パソコンで賀状認むなら良いが喪中理由に賀状は出さぬ  鳥羽散歩

「今週の『朝日歌壇』」より  グレタさんさぞかし激怒するならむクリスマスケーキを殆ど廃棄! 

     高野公彦選

○  グレタさんきっと激怒す一つ家で別々に見る同じ番組  (名古屋市)福田万里子

 せっかくの歳末の日曜日だと言うのに、私の観たい番組は全くありません。
 したがって、環境運動家のグレタさんに叱責される謂れは我が家には絶えてありません。
      グレタさんさぞかし激怒するならむクリスマスケーキを殆ど廃棄  鳥羽散歩


○  ウォーキングの仕上げを七階まで登る踊り場ごとに一息入れて  (川崎市)大塚李恵

 本作の作者・大塚李恵さんのお住まいは、川崎市中原区の武蔵小杉駅前のタワーマンションでありましょうか?
 であるならば、「七階まで登る」のに「踊り場ごとに一息入れ」るのも納得が行きます!
     台風で電機設備が故障してエレベーターも使えぬ億ション  鳥羽散歩
      

○  絨毯に顎乗せ眠るプードルの小さく振れる尾はどんな夢  (入間市)堀利男

 プードル如きが夢など見てたまるか、ってんだ!
     人間は夢を頭で見るけれどプードルは尾で見てんのかしら  鳥羽散歩

○  週刊誌が担う市民の知る権利報道の自由度67位の国  (東京都)三神玲子

 それって何処の国?
       週○○春は我ら庶民の味方なりお金が絡めば○○の味方  鳥羽散歩

「今週の『朝日歌壇』」より  祝電を打ったからとてお返しを期待するのは大怪我の元 

     永田和弘選

○  電報が最速手段でありし時代下宿の扉の内定通知  (横浜市)大建雄志郎

 下宿の汚い扉に挟まれていた電報であったとしても、その中身が内定通知で良かったですね!
      電報が装飾手段のこの頃と結婚祝いのウナ電を打つ  鳥羽散歩
 私の連れ合いの同級生同士のいざこざの一端を紹介しますが、今から十数年前のある日、同級生A宅へ交際らしきものが絶えてなかった同級生Bから突然電話があったそうだ。
 要件は、私の娘Cが、東大の大学院の同級生Dと、明日、ホテル大倉で結婚式を挙げるから、貴女から母親の私の親友としての電報を打って欲しい、との事。
 同級生Aの本心としては、「何を今になって、私があの鼻持ちならぬ女の親友とは!」といった気持ちでもあったのですが、同じ高校で学んだ仲間からの頼みともあらば、との思いから、その翌朝、ホテル大倉宛に結婚祝いの打電したとの事!
 話がそれで済めば何の問題も起こらなかったのであるが、ところが、その後が宜しくありません。
 同級生Aが、私の連れ合いに語ったところに拠ると、その後、同級生Aのところに、同級生Bからは勿論のこと、Bの娘からも何の挨拶も無く、新婚旅行へ行った土産も無かった、との事。
 女性同士の関係は全く不可解そのものである。
     祝電を打ったからとてお返しを期待するのは大怪我の元  鳥羽散歩
 
 
○  故郷の今年最後の墓参りこれより雪の下となる墓  (岐阜市)後藤進

 「雪の下」なればこその温かさに守られて、ご先祖の方々は辛い冬の寒さに耐えられるのでありましょう。
     ご無沙汰も今年限りの帰省かな雪の下なる故郷の廃家  鳥羽散歩


○  命日のお墓参りに行くたびに俗名とつく兄の名悲し  (柏市)青木真理

 御兄君は、あなたの生家の方々と宗旨が異なるので、彼の死後、生家の方々は彼に戒名を付ける訳には行かなかったのではありませんか?
     だとしてもやはり気掛かり兄の墓俗名などと付けるな父母よ  鳥羽散歩


○  どう見ても我の視線を意識してしかも平気で庭ゆく狸  (いわき市)馬目弘平

 「どう見ても」が宜しい!
     昼日中我が家の庭に出没し平気の平左で居るか狸は  鳥羽散歩
     どう見ても狸の方に分が有るよ人間吾にウインクをする

「今週の『朝日歌壇』」より  いそいそと竿を磨いて行く先が酒田花街アネコ待つ街! 

     佐佐木幸綱選

○  障害は不便であれど不幸ではないなど軽く言いたくはなし  (愛知県)清水将一

 作者の清水将一さんは或いは障碍者ならむ?
 だとしたならば、「不幸ではないなど軽く言いたく」も<軽く言われたくもない>のは当然の事でありましょう。
     「障害は一つの個性である」などと嘯きて張る意地など持つな  鳥羽散歩


○  老いてなほ歴代住持の墓所を掃く転ばぬように気をつけながら  (三原市)岡田独甫

 岡田独甫大和尚、今週は馬場選首席と併せて二首(延べ三首)入選、老いて益々壮んなり!
 壮んなる時こそ得てして転倒すること有り!
 よくよく留意なさるべし!
     老いてなほよく詠みそして入選す転ばぬ先の寺の坂道  鳥羽散歩


○  雷が鳴ると夫はいそいそと竿を磨いて鱩を待つ  (酒田市)富田光子

 同じ磨くにしても、鱩を釣る竿ならば、何の心配も要りませんね!
     いそいそと竿を磨きて行く先が鰰の待つ金浦海岸!  鳥羽散歩
     いそいそと竿を磨いて行く先が酒田花街アネコ待つ街!


○  晴天はいいご褒美にマラソンの女子選手等に影もつきゆく  (横浜市)大野文江

 マラソンの選手にとっては「晴天」が必ずしも好記録に通じるコンディションとは限りません!
 疑う者は、東京オリンピックの会場が東京から札幌に変更された理由を思え!
     影連れてよたよた走るマラソンの記録は無惨五時間余り  鳥羽散歩


○  夫にも「反体制」の青春ありてキムタクばりのロン毛の写真  (東京都)松尾みゆき

 入選作三十首の白眉とも言うべき傑作である。
 「キムタクばりのロン毛の写真」と「反体制の青春」とのミスマッチが素晴らしい!
     妻女にも時には家出をしたい時ありて出でますイオンモールへ  鳥羽散歩


○  「稲架襖」死語になりにし小さき稲架台風出水の嵩残りたる  (千葉市)安井三緒

 刈り取った稲は<稲架(はざ)>と呼ばれる稲掛けに掛けて干しますが、この稲架の大仕掛けなものを「稲架襖(はざぶすま)」と言いますが、稲の乾燥が自然乾燥から機械乾燥になった昨今に於いては、この稲架襖は無用の長物化してしまいました。
 しかしながら、この「稲架襖」そのものは未だに各種の辞典などに掲載されていますから、「『稲架襖』死語になりにし」という本作の一、二句目の表現は適切を得ないものと断定せざるを得ません。
 「小さき稲架台風出水の嵩残りたる」という三句目以降の文意の不明瞭さが惜しまれます。
     稲架襖無用の長物化したれども観光資源に成りて健在  鳥羽散歩

「今週の『朝日歌壇』」より   閉店に間近き時刻になりぬれば50パー引きで筋子など売る

     馬場あき子選

○  海近き寺に住する僧の吾はしばしば魚を貰ひてさばく  (三原市)岡田独甫

 馬場選の首席。
 つい、うっかり、「生臭坊主め!、しかし貰う者も貰う者だが、呉れる方も呉れる方だ!」と口に出したくなるが、選者の馬場あき子氏が「寺に地元の産物を贈るのはきわめて当然の人情なのだ。第一首の御住職の生を養う魚捌きも許されるのではないか」と選評にて仰るのも当然の人情でありましょう。
 馬場あき子作に「一尺の雷魚を裂きて冷冷と夜のくりやに水流すなり」(『早笛』所収)という名歌在り。
     スーパーに間近き辺りに住み居れば三割引きの刺身など買う  鳥羽散歩
     閉店に間近き時刻になりぬれば50パー引きで筋子など売る


○  大雨に耐へ抜きつひに収穫の蜜透き通る上田の林檎  (さいたま市)齋藤紀子

 「上田の林檎」と言えば、長野県産の林檎!
 林檎の本場は青森県!
 いや、百歩譲って記せば、秋田県横手市の醍醐地区産の林檎もなかなか美味しい!
 作者は、「蜜透き通る上田の林檎」などと仰るが、そもそも、蜜の有無は林檎の美味しさとは殆ど関りがありません。
     そのかみの醍醐村字明澤の<葉取らずふじ>の美味しさ抜群  鳥羽散歩
     明澤の田中文子の作りたる<葉とらずふじ>を食べてみたんせ


○  箸渡し骨拾ひする平和ありジャングルに消えし戦死の父よ  (福島県伊達市)佐藤茂

 作中の「箸渡し」とは、「拾骨の作法で、骨上げの際に箸でつまんだ遺骨を、順に渡して骨壺に収めること」である。
 また、拾骨の作法の一つに、「二人同時に一つの骨を箸でつまむようにして行うこと」もあり、「男女でペアになり、男性が左を、女性が右を同時に拾い上げるという方法もあるなど、地方によってさまざまであり、宗旨宗派によっては、火葬場職員に任せて、箸渡しを行わないこと」もあるとか!
 第二次世界大戦時に、南国のジャングルで死んだ父を失った作者は、それから七十余年過ぎた今日、「箸渡し」で死者の遺骨を拾う作法に平和を感じているのでありましょう。
     骨上げを待つ間ギター奏でしは父の部隊の曹長なりき  鳥羽散歩


○  風のなか母に似た木が立っているゆがんだ幹をそのまま見せて  (丸亀市)金倉かおる

 「ゆがんだ幹をそのまま見せて」という下の十四音に現実感が感じられる。
    風の中吾に似た凧泳いでる表も裏も隠さず見せて  鳥羽散歩 


○  蟷螂がこんな所に卵産む明日は燃やす茄子の小枝に  (伊賀市)秋田彦子

 「明日は燃やす茄子の小枝」に「卵」を産む「蟷螂」の生もまた、私たち人間の生と同価値なのである。
     ニワトリがこんな所に卵産む寒天冷ましのぶりき罐の底に  鳥羽散歩

 
○  ちさき手のちさきバケツの木の実たちママと二人に柔らか冬日  (岡山市)曽根ゆうこ 

 「ちさき手のちさきバケツの木の実たち」にとっては、「ママと二人」で「柔らか冬日」を浴びるのが最も楽しきひとときなのでありましょう。
     無数なるバケツの木の実と手を繋ぐママはさぞかし千手観音  鳥羽散歩 


○  老いてなお二つの癌の克服の大志を抱き筋トレに励む  (いわき市)守岡和之

 「老年もなお大志を抱くべし」とか!
     老いてなお妻子抱けば死ねもせず癌克服の秘訣教えて  鳥羽散歩


○  教壇が取り払われて先生が少し小さく見えた寂しさ  (観音寺市)篠原俊則

 教室から「教壇」なる高みを追放するのが、昨今の義務教育現場の流行とか?
     教壇を取り除いても教団が妨げとなる教育現場  鳥羽散歩

「今週の『朝日俳壇』」より   執筆途上

     稲畑汀子選

○  寒さ急ナースの吾子に障らずや  (泉大津市)多田羅初美

 「ナース」ともなれば、医師と力を合わせて人の命を救わなければならない存在なのである。
 そうした事をも心得ずに、「寒さ急ナースの吾子に障らずや」とは、何と言う<親馬鹿チャンリン>!
 とは、建前上の私の言い文であり、それとは別に、「人の子の親ともなれば、相手が総理であろうが、医師であろうが、ナースであろうが、風吹けば心配し、雨が降れば心配し、国会で失言しようものなら、世間体を忘れて、我が子可愛さのあまりの阿鼻叫喚の声を上げたりするものである」との思いもするこの頃ではあります。
     座席にて「共産党!」との野次飛ばす!共産党に失礼だろう!  鳥羽散歩


○  卒寿超えこれが最後と書く賀状  (横浜市)松永朔風

 昨今の高齢者の年齢は、一時代前の高齢者の年齢の七掛けと申しますから、「90×0、7=63歳」ではありませんか!
 63歳と言えば、やっと還暦を越えたばかりで、これから先のお楽しみ、というところではありませんか!
 松永朔風さん、あなたは総理大臣の仰る「働き方改革」なるお言葉をご存じですか?
 彼・安倍晋三氏の弁に依りますと、あなたは、これから先、7年間を働かなければならないのです。
 それなのにも関わらず、「これが最後と書く賀状」などと、辛気臭い事を仰いますな!
     去年今年貫く棒の如くあれ妻が死んでも賀状は出せよ  鳥羽散歩


○  ただいまに応へる声のなさ寒さ  (松原市)加藤あや


○  極月の火星を残し沈む月  (長岡市)内藤孝

○  教皇が踏みしめた広島は冬  (寝屋川市)今西富幸

     教皇は寝屋川市に土踏みしめず  鳥羽散歩

○  電飾の碧きひかりにある寒さ  (神戸市)池田雅かず


○  暴風雪北海道を咆哮す  (北海道鹿追町)高橋とも子

     豪雪に北方四島埋もれぬる  鳥羽散歩

○  着ぶくれの影も引きずる散歩かな  (兵庫県太子町)一寸木詩郷

 着膨れてなほ且つ散歩したきかな  鳥羽散歩

○  日向ぼこビタミンBを存分に  (神戸市)森岡喜恵子

   小春日やビタミンBの錠剤をのまず一日過ごす日向で  鳥羽散歩

短歌総合誌に掲載された佳作(2019年)

○  ポケットを引き出されたるわがズボン降参したるさまに干さるる  野田光介(短歌研究・7)

○  近代をささへし胃弱文学の『こころ』しづかに生みだす力  古谷智子(短歌往来・7)

○  買い足して鉢に入れたるヒメダカは道知りたらん迷わず沈む  玉井清弘(短歌往来・7)

○  <便利>とか<お得>を追ひて小走りで生きる民族、東洋にあり  高野公彦(短歌研究・9)

○  古家が「ああ」とも「おお」とも声挙げて乾きゆくなり炎暑の昼を  竹安隆代(短歌往来・10)

○  ときに深夜ひそかな音す気配する座敷童のごと夫ありや  蒔田さくら子(短歌・1)

○  階段にのぼれぬ母は一階の椅子にしばらく座りて帰る  米川千嘉子(歌壇・1)

○  煌々と光を放つ自販機は夜の駅舎に寄り添うように  山川榮(短歌・11)

○  思ひ出を楽しむごとく五年前の梅酒の梅を煮詰めてゐたり  山本登志枝(短歌往来・11)

○  もうすでに事切れしものもありながら林のなかに蟬時雨降る  梶原さい子(歌壇・11)

○  樹木希林さんが永眠して急にファンだと名乗りたくなるこころ  荻原裕幸(現代短歌・11)

○  今日までが専任なれば女子大に来たり なすべきことはあらねど  安田純生(短歌研究・1)

○  とつぜんに家居の夫となりにけり電話が鳴ればみな夫がとる  花山多佳子(短歌研究・11)

○  安倍のそのプルプル顔を平手打ちしてわが裡に刺客戻り来  高野公彦(歌壇・11)

○  モンスターペアレント略して.もんぺという モンペは時を経て蘇る  沖ななも(歌壇・11)

○  ボランティアと呼ばれ瓦礫に働くは天理教のひと創価学会のひと  奥田亡羊(短歌研究・11)

○  扇風機をおよびで止めることいつ覚えしや我が老い妻は  中地俊夫(歌壇・11)

○  ヘルパーの好みの清拭タオルなり干されて乾きて和紙の如しも  冬道麻子(短歌往来・11)

○  頼れるはわが足となる自転車にわずかな路面の凹凸を知る  外塚喬(短歌研究・11)

○  焼き上がり石の窯から出るときにピッツァはふとも目を覚ましたり  栗木京子(短歌研究・2)

○  途方もない大きなものがすぐそばを過ぎていったと体が思う  中津昌子(短歌研究・2)

○  ゲームセンターに「それいけ!ココロジー」というあやしい機械があった  土岐友浩(短歌研究・2)

○  いつからかヒールの足は組まれをり原告われと向き合ふ人の  大口玲子(短歌・2)

○  小紋氏とともども酔ひて裏町の羽付き餃子食ひし夜ありき  高野公彦(短歌研究・3)

○  音のこと光のことを語る人家電量販店に集へり  島田幸典(短歌研究・3)

○  花籠に花あふれゐる病室で褒められてゐるわたしの乳首  山木礼子(短歌研究・3)

○  ひとしきり語られやがて忘れらるやまゆり園に起きし事件も  渡辺幸一(短歌・3)

○  つね半旗なる身の内を流れゆく屠蘇の香りにこの年も明く  三井ゆき(歌壇・3)

○  「いのちの電話」乗るデスクにも通話時間測る時計の置かれてあらむ  木ノ下葉子(現代短歌・5)

○  カット野菜の袋をあける瞬間のうしろめたさがあったな、前は  駒田晶子(短歌往来・5)    

「今週の『朝日歌壇』」より  逝く干支の猪さへも見上げたり屏風岩を攀づるご飯つぶ 

     高野公彦選

○ 頬つつむ認知症の父の手は温し名前を忘れてすまないと言ふ  (宇佐市)長野裕子

 自らが入所している介護施設にお見舞いに訪れた実の娘の「頬をつつむ父の手」の温かさを感じている作者と、その作者の「名前を忘れてすまない」と言いながらも、目前の娘との間に在る、何らかの繋がりを感じている「父」の「手」の温かさ!
 ここに展開されているのは、崇高極まりなき親子の情愛交感ドラマである。
     我が頬を包める父の手あたたかしその手の上に重ぬる己が掌  鳥羽散歩
     我が顔を見つむる視線の温かさ老耄なれど泪す吾も


○ ヘリからの新国立の競技場宝石箱を覗くが如し  (蒲郡市)古田明夫

 完成したばかりの新国立競技場を上空を飛ぶヘリコプターから眺めた光景に取材したのは作者の手柄であるが、惜しむらくは、「宝石箱を覗くが如し」という下の句の十四音は、先人の手垢塗れの常套句である。
     小春日の宝石箱の毀れ居つ 新国立競技場世界に燦たり!  鳥羽散歩
     この函に宝石幾つ入りたるや借金塗れの新国立競技場
     

○ 蓮凛と響く令和の子どもの名ラ行美し鈴の音のごと  (中津市)荒谷みほ

 「マイナビ・ニュース」の報じるところに拠ると、「令和初となる子供の名前ランキング(表記編)の1位は、男の子が2年連続で<蓮>、女の子が<凛>(前年5位)と、男女ともに漢字一文字の名前が首位を獲得した。<蓮>は、仏教の象徴的な花で日本らしさを連想する植物であるとともに、泥の中で根を張り大地に根差すパワフルなイメージがある。<凛>は、可愛らしさに加え、<凛とした>など力強いイメージもあり、女性の活躍推進が叫ばれる中、『<新しい時代を力強く切り開いてほしい>という親の想いが込められている(同調査)、と推測される』」とか!
    凛として生きて欲しいと名付けしも泥塗れなる蓮の境涯  鳥羽散歩


○ それぞれの友と旅行に行くという平成生まれの新婚さんは  (富田林市)岡田理枝

 「成田離婚」なる言葉が無くなっただけでも、いくらかは増しでありましょう。
    それぞれの両親付きのそれよりもいくらか増しな友付きハネムーン  鳥羽散歩


○ 鹿、猿も見上げているや晩秋の碓氷峠の峰つなぐ虹  (安中市)鬼形輝雄

 下の句は、「晩秋の碓氷峠の峰つなぐ虹」とかなり省略の効いた表現となっているが、是を省略せずに言うと「晩秋の碓氷峠から一望される峰と峰とをつなぐようにして架かる虹」という言い方になりましょう。
 省略の是非に就いては、この際は別問題とする。
     逝く干支の猪さへも見上げたり屏風岩を攀づるご飯つぶ  鳥羽散歩


○ 北斎の波間に覗く富士山と今朝見た富士と百年後の富士  (東京都)牧野裕子

 作者の牧野裕子さんは、私たち読者の前に、「北斎の波間に覗く富士山」を肇とした三種類の富士を提示しているのであるが、その優劣などの評価に関わる事柄に就いては何も提示していません。
     近々の大爆発を予測した一首なりせば縁起が悪い  鳥羽散歩

 <補足> 「富士の山はこの國なり。わが生ひ出でし國にては、西おもてに見えし山なり。その山のさまいと世に見えぬさまなり。さまことなる山のすがたの、紺青を塗りたるやうなるに、雪の消ゆる世もなく積りたれば、色濃き衣に白き袙着たらむやうに見えて、山の頂のすこし平ぎたるより煙は立ちのぼる。夕暮れは火の燃え立つも見ゆ。」とは、平安時代の才媛・菅原孝標娘の著作『更級日記』に記載されている富士山に関わる記事であり、その頃の富士山は「山の頂のすこし平ぎたるより煙は立ちのぼる。夕暮れは火の燃え立つも見ゆ」という記載が示す如くに、山頂近くの火口から噴煙が上がっていたようである。
     文字数に制限あるも片手落ち!中古の富士にも敷衍すべきだ!  鳥羽散歩


○ 木枯しの街を帰りて関節の一気にゆるむ柚子風呂の中  (香取市)嶋田武夫

 「関節」が「一気にゆるむ」としたら、作者のやる気満々の気持ちも薔薇薔薇になってしまうと違いますか?
     柚子薫る冬至の今日の浴槽に放屁一発気分爽快  鳥羽散歩


○ 弟が朝日歌壇にのりましたゆっくり書いたふらふらの文字  (奈良市)山添葵

 山添葵さんは、この度の弟さんの朝日歌壇への初投稿に際して、その一挙一動の全てを、彼の傍に付き添っていて温かく眺めていたのでありましょう。
 それだけに、その嬉しさと言ったら……………!
      弟とダブル入選おめでとうライバル多し油断大敵  鳥羽散歩
      弟とダブル入選おめでとう!これから先は弟ライバル!
      イヴだ!イウだぜ、葵さん!体重気にせず、ケーキ食べよう!

 
○ かわらそばはじめてたべたらげんきでたかぞくみんなでたべにいったよ  (奈良市)やまぞえそうすけ

 奈良市にお住いの<やまぞえそうすけ>君は、健気にも、朝日歌壇に投稿し、この度は、末席ながら高野公彦選に入選を果たされました。
 作者のそうすけ君が未だ就学前の年齢であるが故に、投稿作は、すべて平仮名で表記されているが、それを一部漢字に改めると「瓦そばはじめて食べたら元気出た家族みんなで食べに行ったよ」という、就学前の児童の詠んだものとは思えないほどのご立派な作品である。
 尚、作中の「かわらそば(瓦蕎麦)」とは、「.熱した瓦の上に茶そばと具を載せて、温かいめんつゆで食べる料理」であり、「山口県下関市豊浦町」が、その発祥の地とされる。
 事の序でに、ウイキペデイァを参照して、その由来に就いて述べれば、「1877年(明治10年)の西南戦争の際に熊本城を囲む薩摩軍の兵士たちが、野戦の合間に瓦を使って野草、肉などを焼いて食べたという話に参考にして、1961年(昭和36年)に川棚温泉で旅館を営む高瀬慎一が宿泊者向けの料理として開発したとされる。これが評判となり川棚温泉の他の旅館でも提供され始め、「川棚温泉の名物料理」とされるようになった。さらには下関市を初め山口県内各地でもご当地グルメとして広まり、山口県出身者等により山口県外でも提供する店が存在する。一部の料理店では瓦ではなくステーキ用の鉄板で提供することもあり、この場合は「茶そば鉄板焼」と呼ばれることも多い。山口県内では広く家庭でも食べられている。家庭向けに蒸した茶そばとつゆのセットがスーパーマーケットなどで売られており、家庭でも調理されることもあるがもちろん、家庭では瓦に載せて調理されることはあまりなく、ホットプレートやフライパンが用いられる。調理法としては焼きそばに近く、家庭向け袋入り製品には<瓦焼きそば>と表示された商品もある」とか!
 通常、例え就学前の児童と言えども、「おそばを食べたら元気が出た。家族みんなで蕎麦屋に行ったんだ」なんて貧乏たらしい事を口にしたりはしません。
 それにも関わらず、彼はそれをただ単に口にするだけでは無くて、いかにも自慢たらしい口調で、<五七五七七>の短歌のリズムに乗せて詠うばかりではなく、我が国の新聞歌壇をリードする<朝日歌壇>へ投稿するのである。
 こうした彼の蛮行は、一重に彼を支えるご家族のご指導の宜しきを得ての事でありましょう。
 おめでとう、やまぞえそうすけ君!
 お姉ちゃんの葵さんとのダブル入選だね!
     姉さんとダブル入選おめでとう高野先生やさしい選者      鳥羽散歩
     歌選ぶ高野先生やさしくて少しおまけの末席入選!
     このたびは少しおまけの末席だ!伸るか反るかはこれからのこと!
     イヴだ!イヴだぜ、そうすけ君!お口ぱくぱく蕎麦、否、ケーキ食べよう!

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