fc2ブログ

archive: 2021年12月

佐藤弓生第三歌集『薄い街』(沖積舎・2010年)(其のⅤ)

No image

〇  まつり縫いいまだ終わらないこの宇宙ウール100パーセントスカート〇  まてんろう 海をわたってわたしたち殖えてゆくのよ胞子みたいに〇  まよなかにおなかがすいていつまでもにんげんでいるなんて、錯覚〇  満天にいま噎せかえる沈黙の、死後の朝より呼ぶ声きこえ〇  みずいろの風船ごしに触れている風船売りの青年の肺〇  自らに短き影をおとしつつ塔はまひるを過ぐる旅びと、〇  水鳥がきざむ水面を曳かれ...

  • 0
  • -

佐藤弓生第三歌集『薄い街』(沖積舎・2010年)(其のⅣ)

No image

〇  だしぬけに孤独のことを言う だって 銀河は銀河の顔を知らない〇  手ぶくろをはずすとはがき冷えていてどこかにあるはずの薄い街〇  、と思えばみんなあやしい……このなかの誰かが死者である読書会〇  とざされて仰ぐさくらのそとのそとVOYAGERの永遠の遠泳〇  飛ぶ紙のように鳥たちわたしたちわすれつづけることが復讐〇  ドードーの声はしらねどほろぶべき歌ドードーの声もてうたう〇  どの人が夫でもよくな...

  • 0
  • -

佐藤弓生第三歌集『薄い街』(沖積舎・2010年)(其のⅢ)

No image

〇  さくら打ち砕かれてよりあらわれぬ地上に小惑星帯(アステロイドベルト)は〇  ざっくりと西瓜を切れば立ちのぼる夜のしじまのはての廃星〇  塩壺の匙のむらさき深海に腐蝕されゆく船のたよりに〇  紫外線濃き一日を街角に少女はなくしたいものだらけ〇  舌先を愚者フールみたいにつきだせば冬のおわりのあおぞらにがい〇  しばらくはまだ鼠だったんだろう朝の車道に毛はそよぎつつ〇  霜月の宝飾売場さんざめく...

  • 0
  • -

佐藤弓生第三歌集『薄い街』(沖積舎・2010年)(其のⅡ)

No image

〇  階段にうすくち醤油香る朝わたしがいなくなる未来から〇  花器となる春昼後刻 喉に挿すひとの器官を花と思えば〇  風かつて声帯をもてかく云えり──おれはことばといっしょに死ぬよ。〇  風の中めがねずらせばミルフィーユみたいにふるいあたらしい町〇  からっぽのからだかかえて鳴りやまぬ蟬を礼拝堂と呼ぶべき〇  革靴を露に濡らしてやってくるあれはわたしの若い父さん〇  考える葦と呼ばれて遊星に六十億の...

  • 0
  • -

佐藤弓生第三歌集『薄い街』(沖積舎・2010年)(其のⅠ)

No image

〇  喘ぎ、つつ、わが漕ぎ、ゆけば、自転車になりたい夏にさいなまれたい〇  赤い石鹸になりたいあたたかいあなたの手から溶けてゆきたい〇  あとかたもなかった 草の寝台で草の男と寝てたみたいに〇  あとすこし、すこしで星に触れそうでこわくて放つ声──これが声〇  石の汗ほのかに匂う参道をゆけばわたしはむかし石の子〇  いっせいにミシンのペダル踏む学園あたしは赤い暗号を縫う〇  うごかない卵ひとつをのこ...

  • 0
  • -

山木礼子第一歌集『太陽の横』(短歌研究社・2021年)」を読む(其のⅡ)

No image

〇  最後まで楽しいと思へないままで育児が終はるまづしく終はる〇  触つてはいけないものばかりなのに博物館で会はうだなんて〇  三年をともに過ごして子はいまだ母の名前を知らずにゐたり〇  出張へ旅立つ人をこころよく見送るごとに母親になる〇  小説を読まずに生きる一生は楽しからうよ草なども踏む〇  白ごはん二膳ならべて四本のかひなを順々にまくりやる〇  「シンデレラ、十二時までは働いて。電車がなけれ...

  • 0
  • -

山木礼子第一歌集『太陽の横』(短歌研究社・2021年)」を読む(其のⅠ)

No image

〇  朝から落ちつぱなしのシリアル拾ふより体のために横になりたい〇  生きることの目的は生き延びること床からひろつた服なども着て〇  いつか詩になると信じてやり過ごす日々にシンクの泡は壊れて〇  いつしんに見しゲイビデオまぶしきは前と後ろの入れかはるとき〇  芋ほりに子が持ち帰る大ぶりで泥だらけの芋 こまりますよね〇  植込みの先へしばらく立ちどまり猫見るときは猫のやうなる〇  うすあをき雪の降り...

  • 0
  • -

「谷岡亜紀第二歌集『アジア・バザール』(雁書館 ・1999年)」を読む

No image

〇  一冊の恋を読み終え疲れたる瞳を初秋のプールに冷やす〇  魚たりし夢に目覚めて食う夏の果実の酸にそよぐ体は〇  極東の悲しみの雨の黄昏を巡礼めきて影が行き交う〇  この秋をおまえは淡く色付いて初めて受ける雨の口づけ〇  籠りいる真冬の正午絶え間なくヘリコプターの音の降り来る〇  殺気立つ日暮れの駅の雑踏に呑まれ名前を呼び合う家族〇  賛美歌を大音量で奏でつつ水辺を目指す重装の群れ〇  「すみや...

  • 0
  • -

「谷岡亜紀処女歌集『臨界』(雁書館・1993年)」を読む(其のⅡ)

No image

〇  黄昏の世界がおれに泳がせる50mプール32秒で〇  単車群青き市街を駆け抜けて夜明けに熱き 同時代!〇  天啓を待つにあらねど夕空に仰ぐインドのハレー彗星〇  遠き恐怖(テロル)の日々を知らざる少女らが朝の渚に拾う骨貝〇  逃走は今日もなされずターミナル駅に日暮れの電車を待てり〇  都市からのすっぱい風に吹かれつつ潰れた月を空に見ていき〇  「都市という名の劇場に生かされている僕たちは遊ぶ、苦しく」...

  • 0
  • -

「谷岡亜紀処女歌集『臨界』(雁書館・1993年)」を読む(其のⅠ)

No image

〇  朝焼けに解凍されてクレパスの絵本の町のごとく明けゆく〇  いつまでも沈まぬ夕日を追いかけて王国へ飛ぶ機中に眠る〇  魚たりしヒトの記憶を眠らせて夜を緑に点す水槽 〇  うるとらの父よ五月の水青き地球に僕は一人いるのに〇  おれの中の射殺魔Nは逃げてゆく街に羞しい歌が溢れても〇  開戦の前夜のごとく賑える夜の渋谷に人とはぐれぬ〇  核施設構内の立つ塔の上にすばやく黒き人影動く〇  傍らで幼き日...

  • 0
  • -