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archive: 2022年01月

「花山多佳子第十歌集『晴れ・風あり』(・2016年)」を読む(其のⅣ)

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〇  被災せし人は誰も見ず 鳥瞰的津波映像を見るはわれらのみにて〇  筆談をせむと思へどリア王のごとくに父は目を閉ぢてをり〇  引明けの鼠色の雲いちめんにうごめきわらわらと飛びかふ鳥かげ〇  ひとつ蝉はやく啼けどもそののちを忘れたやうに蝉の声なし〇  二日後にまた現れて地元の子(ジモッテイ)と飲みにゆきたる息子は現(うつつ)〇  ベートーベン第九流しつつ夜を来る灯油販売車待つはわれのみ〇  干柿のかた...

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「花山多佳子第十歌集『晴れ・風あり』(・2016年)」を読む(其のⅢ)

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〇  誰かしら間に居りて切れるとも繋がるともなき父との歳月〇  近づけば道に飛び立つ鶺鴒が舌打ちのごとき声を残せり〇  散りつくしたるのちうつすらと赤み帯ぶる桜の道は末路のごとし〇  疲れたるまぶたを押せばいくつもの胡瓜草の花のいろ現るる〇  つぎつぎに「おじやましました」と言ふ声の聞こえて息子もゐなくなりたり〇  佃島リバーシティに降る雨は佃小橋の水路にも降る〇  つづまりは妥協を余儀なくされる...

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「花山多佳子第十歌集『晴れ・風あり』(・2016年)」を読む(其のⅡ)

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〇  顔見えぬ夜の暗さに群衆のしづかに動く渋谷駅前〇  貸本屋には少女漫画を借りて来しころ思ひ出す赤き躑躅は〇  柏市の線量高し 三月十四日「晴れ・風あり」と手帳に記しあり〇  風落ちたやうなしづけさ 大きなる鳴子のこけしがよこたはるのみ〇  行人坂くだりゆくとき上りくる人多し上るとき下りくる人多し〇  行人坂の近くに部屋を借りるといふ娘の一人暮らしにときめく〇  こいつは馬鹿だ、と息子が言つて去...

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「花山多佳子第十歌集『晴れ・風あり』(・2016年)」を読む(其のⅠ)

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〇  朝あさを水そそぐなりいつしかに雑草のみとなりし鉢にも〇  朝な朝な土の乾ける植木鉢に水そそぎつつ睦月すぎゆく〇  あたらしき雪平鍋に滾りつつ湯は芽キャベツのさみどりを揉む〇  誂へし原稿用紙に書かれゐる文字ことごとく枡目を無視す〇  阿部川の花火の音かプラットホームに立ちて聞きをり赤き月のぼる〇  家を出て十字路渡つた角に在る 入れた記憶のなくなるポスト〇  家を出る娘の荷物に混ぜておくパン...

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「大口玲子第四歌集『トリサンナイタ』(角川書店・2012年)」を読む(其のⅥ)

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〇  まだ歩かぬわが子味はひ尽くすべく畳の上に転がしておく〇  見えぬものは見ない人見たくない人を濡らして降れり春の時雨は〇  見送りののち出社する夫見れば寒さうに鼻をかんでゐるなり〇  みどりごは祝福されて原子炉から三〇キロを隔てて眠る〇  水、電気、ガス止まりたるを言ふわれに「津波と原発」と夫は苛立つ〇  夜勤明けのきみ、徹夜明けのわれ眠り昼寝の犬はガラス戸のそと〇  夕立は不意に来るもの降り...

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「大口玲子第四歌集『トリサンナイタ』(角川書店・2012年)」を読む(其のⅤ)

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〇  西会津過ぐるころ(まだ仙台に居ますか)無垢なるメール届きぬ〇  握り開きみづからの手にうつとりと見入るわが子に近寄りがたし〇  乳頭に馬のあぶらを塗りながらをりをり馬のまばたきをしつ〇  人形に「もうすぐ地震をはるよ」と繰り返す子のひとり遊びは〇  「妊婦さん」と括られてゐる明るさの明るさほどに楽しくあらず〇  飲み水がなければビールを飲まうかと口にして夫に叱らるる朝〇  阪神の死者を超えた...

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「大口玲子第四歌集『トリサンナイタ』(角川書店・2012年)」を読む(其のⅣ)

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〇  たかぶりて子は手を振れり消防車救急車ばかりのサービスエリア〇  大聖堂小聖堂ある教会の小聖堂に木のキリストが居る〇  近い将来必ず来ると言はれゐし揺れと思ひつつ子を抱き耐へつ〇  胎内に小さきぺニスありし日のわれの眠りの濃度せつなし〇  たかだかと子の足首を持ち上げて桜散るなか襁褓替へたり〇  ただわれをまねて両手を合はする子その祈り深からむわれよりも〇  食べものを探してくると夫は出かけめ...

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「大口玲子第四歌集『トリサンナイタ』(角川書店・2012年)」を読む(其のⅢ)

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〇  咲き満てる桜さへづりをこぼすたび子もさへづりぬトリサンナイタ〇  酒に酔ひ汚れて帰り来し夫が苦しみ寝入るまでを見てゐつ 〇  試運転の新型車両はあツあツと声上ぐる子を振り返らざる〇  「食材王国宮城」の看板残りつつ仙台駅は壊れてゐたり〇  記されし祈りの言葉呟きて祈りに似たることをわがしつ〇  しんしんと夜の雪渓をゆくごとく目瞑りて子に母乳を与ふ〇  じわじわとやぶれつつ命産みし日の雲なき空...

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「大口玲子第四歌集『トリサンナイタ』(角川書店・2012年)」を読む(其のⅡ)

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〇  紙袋に乳児捨てられし記事を読みその重さありありと抱きなほす〇  可哀想な子どもは可哀想なわれになり可哀想なわれの父母となる〇  寒色のピカソ「母子像」八本の手首足首いづれも太し〇  額縁の中の桜と教会がみるみる傾き落ちて割れたり〇  瓦礫のなかにあまたの硯ありしこと電話に告げ来し夜を忘れず〇  きみに会ひ東京の春捨てしより十年間の桜つもれり  〇  きみは女嫌ひで鳴らすわが犬は猛烈に吠えるこ...

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「大口玲子第四歌集『トリサンナイタ』(角川書店・2012年)」を読む(其のⅠ)

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〇  朝顔の紺の高さに抱き上げてやれば蜘蛛の巣に手を伸ばしたり〇  油絵の奥に転がる柘榴の実 凝視してわが臓器が痛む〇  「あらばき」と唾とばして言ふときの馬の眼をもつ古代の女 〇  あるときはみづからに歌ふ子守唄おにぎりに海苔はりつけながら   〇  一時間六百円で子を預け火星の庭で本が読みたし〇  命ありて集まれるミサののちにして司祭一人の死は告げらるる〇  今となりて思へばいつときの揺れなり...

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