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archive: 2022年04月

「服部真里子第二歌集『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房・2018年)」を読む(其のⅥ)

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〇  水を飲むとき水に向かって開かれるキリンの脚のしずけき角度 「しずけき角度」にほ降参せざるを得ません!〇  蜜と過去、藤の花房を満たしゆき地球とはつか引き合う気配〇  見る者をみな剥製にするような真冬の星を君と見ていつ〇  胸をながれる昏くて熱い黄金よ秋は冒瀆にはよい季節〇  眼鏡というひとりのための湖を父の顔から持ち去る夜明け〇  もう行くよ 弔旗とキリン愛しあう昼の光に君を残して〇  夕顔...

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「服部真里子第二歌集『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房・2018年)」を読む(其のⅤ)

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〇  俳優の名前を思い 出せぬまま梨むいている日暮れの窓辺〇  肺を病む父のまひるに届けたり西瓜の水の深き眠りを〇  白木蓮(はくれん)に紙飛行機のたましいがゆっくり帰ってくる夕まぐれ〇  鋏というはばたくだけの魂にはつか傷つけられて指(おゆび)は〇  春、君のことをひと声呼んだきり帰らない紙飛行機がある〇  春よお前 頭にかすんだような空載せて大きな体で悲しむお前〇  陽だまりで梨とり分けるしずか...

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「服部真里子第二歌集『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房・2018年)」を読む(其のⅣ)

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〇  大陸は海の上にてこの春を眠る李の花など載せて〇  黄昏はひきずるほどに長い耳もつ生き物としてわれに来る〇  たましいを紙飛行機にして見せてその一度きりの加速を見せて〇  誰を呼んでもカラスアゲハが来てしまうようなあなたの声が聴きたい〇  地下鉄のホームに風を浴びながら遠くの敵や硝子を愛す〇  父の髪をかつて濯ぎき腹這いの光が河をさかのぼる昼〇  父に買う花をさがしに行く街の牙降るごとき真昼間...

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「服部真里子第二歌集『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房・2018年)」を読む(其のⅢ)

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〇  災厄を言う唇が花のごとひらく地上のあちらこちらに〇  さらさらと舌のかたちの葉を垂らす夜の夾竹桃を怖れる〇  さるびあがみな小さく口開けていてこのおそろしい無音の昼よ〇  死者の口座に今宵きらめきつつ落ちる半年分の預金利息よ〇  羊歯を踏めば羊歯は明るく呼び戻すみどりしたたるばかりの憎悪〇  水仙と盗聴、わたしが傾くとわたしを巡るわずかなる水〇  すぐに死ぬ星と思って五百円硬貨をいくつもいく...

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「服部真里子第二歌集『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房・2018年)」を読む(其のⅡ)

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〇  傘を巻く すなわち傘の身は痩せて異界にひらくひるがおの花〇  風がそうするより少していねいに倒しておいた銀の自転車〇  風の日にひらく士師記は数かぎりなき報復を煌めかせたり〇  風の日の父を思って五メートル聖書を頭に載せて歩いた〇  楽器より深く眠れる父の胸に夜は楽器を抱かせてみたい〇  神様と契約をするこのようにほのあたたかい鯛焼きを裂き〇  神さまのその大いなるうわのそらは泰山木の花の真...

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「服部真里子第二歌集『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房・2018年)」を読む(其のⅠ)

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〇  ああ雪を待っているだけわたしたち宇宙にヘッドフォンをかぶせて〇  愛を言う舌はかすかに反りながらいま遠火事へなだれるこころ〇  暁を雲雀のように落ちながら正夢も逆夢も好きだよ〇  あかときの雨を見ている窓際にしずおかコーラの瓶をならべて〇  甘夏が好き(八月は金色の歯車を抱き)甘夏が好き〇  雨の夜の馬体のように一日は過去へむかって運ばれてゆく〇  息あさく眠れる父のかたわらに死は総身に蜜あ...

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「服部真里子処女歌集『行け広野へと』(本阿弥書店・2014年)」を読む(其のⅥ)

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〇  前髪へ縦にはさみを入れるときはるかな針葉樹林の翳り〇  窓ガラスうすき駅舎に降り立ちて父はしずかに喪章を外す〇  窓際で新書を開く人がみな父親のよう水鳥のよう〇  マフラーの房をほぐして笑ってる酔うとめんどくさい友だちが〇  回るたびこの世に秋を引き寄せるスポークきらりきらりと回る〇  見下ろせばほとんどひかり父親がラジオ体操第二を踊る〇  湖に君の姿は映されてそのまま夏の灯心となる〇  湖...

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「服部真里子処女歌集『行け広野へと』(本阿弥書店・2014年)」を読む(其のⅤ)

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〇  なにげなく掴んだ指に冷たくて手すりを夏の骨と思えり〇  何らかの口止め料のようにして眠るキャベツを受け取っている〇  縫い針はしきりに騒り雨だった頃のあなたをほのめかすのだ〇  野ざらしで吹きっさらしの肺である戦って勝つために生まれた〇  白杖の音はわたしを遠ざかり雪降る街を眠らせにゆく〇  走れトロイカ おまえの残す静寂に開く幾千もの門がある〇  はつなつの光よ蝶の飲む水にあふれかえって苦...

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「服部真里子処女歌集『行け広野へと』(本阿弥書店・2014年)」を読む(其のⅣ)

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〇  丈高きカサブランカを選び取る ひとつの意志の形象として〇  だとしてもあなたの原野あしたまた勇敢な雪が降りますように〇  父眠りし後もしばらく続きおり『鬼平犯科帳』の剣戟〇  父よ 夢と気づいてなお続く夢に送電線がふるえる〇  沈黙はときに明るい箱となり蓋を開ければ枝垂れるミモザ〇  つばさの端のかすめるような口づけが冬の私を名づけて去った〇  冷たいね 空に金具があるのならそれに触ってきた...

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「服部真里子処女歌集『行け広野へと』(本阿弥書店・2014年)」を読む(其のⅢ)

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〇  逆さまにメニュー開いて差し出せばあす海に降る雨のあかるさ〇  さよなら三月、もう会えないね 陽だまりにほつほつ化粧水をこぼして〇  三月の真っただ中を落ちてゆく雲雀、あるいは光の溺死 〇  塩の柱となるべき我らおだやかな夏のひと日にすだちを絞る〇  死者の持つホチキス生者の持つホチキス銀(しろがね)はつか響きあう夜〇  終電ののちのホームに見上げれば月はスケートリンクの匂い〇  ジャンプと水だ...

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