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archive: 2022年12月

大晦日の一首

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〇   本年はお節料理を高直(こうじき)で大晦日(おおつごもり)は合はぬ算用  鳥羽散歩⁅註⁆   『大晦日は合はぬ算用』は、井原西鶴作『西鶴諸国ばなし』(巻Ⅲ)所収の短編小説であり、その概要を示すと、「ある浪人たちが宴会を開いた。客は七人。主催者も客も浪人である。宴会の途中、主催者の持っていた小判十両を包み紙ごと客に見せ、宴会の終わりに回収して枚数を確認したら、なんと一両足りず九両である。客たちの間に...

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今日の一首

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〇   老いぬれば朽木の洞に身を投げて命絶つとふ雀かなしも    鳥羽散歩 敗戦後のどさくさの最中に小学校に入学した私の夢のひとつに「焼き鳥をたらふく食う」ということがあった。 都会とは幾分事情が異なるが、北国の田舎町の住人である私たちは、年から年中お腹を空かしていて、その頃、町のあちこちに出来初めた一杯飲み屋の賑わいと、そのつまみの焼き鳥は、欠食児童の一人であった私の憧れだったのだ。 嘘か真かは...

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哀悼 篠弘  「独りして立つ」(<短歌>2022年・11月号掲載)を読む

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       「独りして立つ」  篠 弘(まひる野)〇   カーテンにくれなゐきざす早暁にさやけき秋の日照を待つ 高齢者は目覚めるのが早く、一番鶏が鳴く前に起きていて、日の出を今か今かと待っているのである。〇   生涯の実像おほむね迫りきて腕時計の電池入れ替へにゆく 過ぎ去ってみると、代わり映えのしない人生だったのであり、これ以上長生きしても面白いことは無かろう、とも思われるのであるが、取り敢えずは...

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哀悼   「篠 弘第四歌集『至福の旅びと』(砂子屋書房・1994年)」を読む(其のⅣ)

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〇   まがふなく人間われがただよひてデスクの隅のゴム輪を蒐む〇   麦畑の昏るるをゑがくゴッホの絵炎の芯が盛りあがりゐつ〇   酩酊のポーズをとりし背の芯に浴びせられたる声を忘れず〇   目薬の溢るるしづく掌に拭ふさびしきさまを二度くりかへす〇   芽ぶきそめて枯れし二本の白樺にこだはりてゐる中年われが〇   夕映ゆるさきがけとして柿の苗ひかりの列が立ち上がりたり〇   よどみなく企画の決まる感...

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哀悼   「篠 弘第四歌集『至福の旅びと』(砂子屋書房・1994年)」を読む(其のⅢ)

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〇   大戦を凌ぎしレニングラードの白夜にうるむ星を仰げり〇   大理石の碧きを踏みて至福なる旅人われはダ・ヴィンチに立つ〇   宙吊りに窓拭くさまを目に入れて磯田光一の論を読みつぐ 〇   ドラえもんを「機械猫」と意訳して人民美術社そのままを出す 〇   のぼりゆく春の樹液の音を詠むこの帰郷者のことばがたぎつ〇   花の季の蜂の羽音にのぼりくるエレベータのボタンを押せり〇   はるかなるタワーに赤...

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哀悼   「篠 弘第四歌集『至福の旅びと』(砂子屋書房・1994年)」を読む(其のⅡ)

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〇   システムにしだいに与し損ねたる古代朝鮮史まなべる友が〇   疾風のしるきタべは昏れずして花狂(ふ)れそむる桐を見下ろす〇   首都高速のサイドをくねる神田川汚れしといへ雨脚ひかる 〇   主義なべて逆転しゆく呻吟にこの寒中は身にし沁むまで〇   知る顔のひとりとてなきロビーより留守番電話の妻の声きく 〇   十年を経て明るめる晩餐図聖(セイ)マタイそのたしかなる顎〇   数枚のコピーのずれを...

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哀悼   「篠弘第四歌集『至福の旅びと』(砂子屋書房・1994年)」を読む(其のⅠ)

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〇   いまだ解かぬ梱包ならぶ窓に見つテニスコートの白線のぶれ〇   会合にありて発言の機を待つに椅子軋ましむ若き一人が〇   海上にもの音ひとつなき刹那モノレールが金の鎖つらぬる〇   還らざるひと日は過ぎむ指をもてグラスにあそぶ氷片掬ふ 〇   返りくることばを待たむ直截に応ずる人は危ふかれども〇   革命の遺産となりし透きとほるスラヴをとめの白鳥の脚〇   簡潔につたふる若き通訳のことばは何...

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「内藤明第六歌集『薄明の窓』(砂子屋書房・2018年)」を読む(其のⅥ)     「歌集」という暗室の縛りから逃れ得た時、一首の歌は如何ほどの媚態を示し得るか?

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〇   まだ少し時間があれば聴かむとす野の鳥のこゑ梢吹く風 〇   むかしむかし水を湛ふる星ありと祖母が語りし日の繰れ方〇   もう少しゆけばかならず楽になる楽になるとぞ歩み来たれる 〇   もしやわれ躁にてあらむか次々と安請け合ひを重ねきたりぬ〇   やり直しきかぬ齢と知る時に空也の脛を思はざらめや〇   夕鶴の一羽飛び立つまぼろしを二十二階の窓に追ひゆく〇   ゆつくりとカッターの刃を押し出し...

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「内藤明第六歌集『薄明の窓』(砂子屋書房・2018年)」を読む(其のⅤ)     「歌集」という暗室の縛りから逃れ得た時、一首の歌は如何ほどの媚態を示し得るか?

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〇   夏草のやがて覆へる道ならむ近き記憶のかへることなし〇   並木道銀杏の葉より落ちる雨ときおり傘を強く打ちたり〇   韮の花白く浮き立つかたはらを汗垂りながらいづくへ帰る〇   伸びをして隣を見れば眼鏡なき猫の時間に秋の日は射す〇   花にあそび風とたはむれ水分の社の庭にまなこを瞑る〇   玻璃のそと渡り廊下を行く人は両手に髪を押さへつつゆく〇   春の雪遠く降るらしケータイの着信ランプが点...

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「内藤明第六歌集『薄明の窓』(砂子屋書房・2018年)」を読む(其のⅣ)     「歌集」という暗室の縛りから逃れ得た時、一首の歌は如何ほどの媚態を示し得るか?

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〇   絶え絶えに闇の底よりひびき来る消音(サイレント)ピアノの鍵盤(キー)敲く音〇   愉しかる一日なりけり事どもの軽き重きを問はざりしゆゑ〇   溜息のわれの口よりいづるらし夜の電車に四囲を見回す〇   通過点か行き着く先かわからねど死といふものがありて安らぐ〇   突つ立ちて葦吹く風を見てゐたり流され来たる朝のごとくに〇   手の甲に首の寝汗をぬぐひをりさを知らぬ中年のくび〇   天に向きは...

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