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「島楓果処女歌集『すべてのものは優しさをもつ』(ナナロク社・2022年)」を捲る(其のⅠ)

〇   相槌をうつタイミングがわからなくなってなんにも聞こえなくなる

 「相槌をうつタイミングがわからなくなって」しまうこと自体は人間ならば誰でも体験することではあるが、そうした時に「なんにも聞こえなくなる」ことは、万人が万人、経験することではありません。もしも作者自身がそうした状態に陥ることが多い人間であるとするならば、作者は俗に云う「固まり型人間」なんでしょう。
     今こそは相槌を打つタイミング!遅れちやならぬと教師全員!   二嶋 結


〇   行き先があるふりをして歩くとき足はわたしを置き去りにする

 「行き先があるふり」に限らず、私たち人間が「何かのふり」をする時は、自らの心が自らの体の動きについて行かないから、「(わたしの)足はわたしを置き去りにする」のであり、それは必ずしも珍しいことではありません。
     行き先か逝き先なのかは知らねども八十路山坂攀じ行く吾ぞ   二嶋 結


〇   いつか死ぬ二人が死ねば消えてゆく思いをぶつけ合い生きている

 要するに、「死とは何か?」という問題なのである。
 憎しみ合ったり愛し合ったりしている二人の人間が死んでしまえば、件の二人の間で生前に交わされた愛情や憎悪の心まで消滅してしまうのでありましょうか?
 そんなむつかしいことは、私・鳥羽散歩には解りませんが、人間は、例え愛し合っていたとしても、憎しみ合っていたとしても「いつか死ぬ」ことが運命づけられている存在なのである。
 従って、斯く申す、私・鳥羽散歩は、「いつ死んでもいい」との覚悟だけはしているつもりである!
    孰れ行く道とは知れど逝くまではブログ更新ひたすら励む   二嶋 結


〇   今までは眠れば済んでいたことが済まなくなって眠れなくなる

 「今までは眠れば済んでいたことが済まなくなって眠れなくなる」ことは、本作の作者に限らず、人間ならばよく経験することである。
 しかし、一般的な思考力の備わった年限内を起こる現象であり、その年限を越えると、
ある程度の年齢に達すれば、という話であって、その年齢を越えれば、再び、「ひと眠りすれば済む」という状態になるのであり、そもそもの話をすれば、そうした年限を越えてしまった人間は悩むこと自体をしなくなるのである。
 だが、それは、人間として望ましい状態なのか、望ましくはないけれど、受け入れざるを得ない状態なのか?
     是までは「記憶にない」との答弁に誤魔化されたがそうはさせない!   二嶋 結


〇   渦巻きに火をつけたときから生の入れ物に注ぎ込まれてゆく死

 人間存在は「渦巻き」状態を成していると思っている作者!
 人間は生を享けると同時に「人間存在」と化すのであるから、そうした作者にとっては、「<誕生>すること自体が、<死>への坂道を驀進して行くこと」なのでありましょう。
 それにしても、「渦巻きに火をつける」という比喩表現の素晴らしさ!
 私はつい先日まで、就寝前に「金鳥の渦巻き型蚊取り線香」に百円ライターで「火」を付けることを生活習慣としていましたが、今は寒さ盛りの寒中なので、そうした生活習慣を一時停止している状態なのである。
     金鳥の蚊取り線香渦巻に着火するのが就眠儀式!   二嶋 結
     金鳥の蚊取り線香渦巻に着火してゐた昭和の頃よ
     金鳥の蚊取り線香渦巻に着火したりはてない令和
     金鳥の蚊取り線香渦巻に着火するのが蚊殺す秘訣


〇   思い出したくないことを思い出すたび焚べられてゆく薪
 こうした事も雪国育ちで薪ストーブを焚いて暖を採って私にはよく解ります。
     思ひ出したくはないけど思ひ出す!化石燃料価格沸騰!   二嶋 結
     思ひ出したくはないけど思ひ出す!原子力発電所再稼働


〇   帰りみち後部座席のばあちゃんはあしたのジョーのラストの姿勢

 帰路のバスの後部座席で「あしたのジョーのラストの姿勢」で居眠りしているとは、件の「ばあちゃん」は「何んと漫画チックなばあちゃんですこと!」
 でも、それが嵩じて、<降りますランプ>のボタンを押し忘れたりすると終点まで連れて行かれますから、「あしたのジョーのラストの姿勢」をとるのも程々にして下さいねェばあちゃん!
     定期では乗せてくれない深夜便!小田急・東急・川崎市営!   二嶋 結


〇   噛みちぎれなくて無理やり引っ張った干し芋が持ち帰った前歯

 言葉足らずを補えば、「(茨城名産の)干し芋を口に入れて歯で噛み千切ろうとしたら、件の干し芋はあまりにも固過ぎて噛み千切れなかったので食べるのを止そうとして口から引っ張り出したところ、あろうことか件の干し芋は、自らが噛み締め地獄から解放された序でとばかりに、私の口の中から私の大事な大事な前歯まで口の中から持ち帰ったのであるが、その憎たらしい干し芋よ!」と云ったことになりましょうか!
 お金をケチって賞味期限切れの干し芋なんかに手を出すから、こんな悲喜劇に見舞われたりするんですよ!ケチるのも程々にしなさいよ!
     部分入れ歯の隙間にも潜り込んでる「パールホワイト」の微細なる種!   二嶋 結


〇   紙パックたたんだことでたたまれた紙パックから礼を言われる

 たたんで網籠の中に入れたぐらいで「紙パック」が礼を言うかい!
 嘘を言うのも程々にしなさいよ!
     自分より見た目は若い婆さんに席譲られてお礼も言はぬ   二嶋 結


〇   空っぽのコップが倒れたテーブルにコップの中の空気は満ちる

 是もまた、作者一流の嘘偽り事なのである!
 「空っぽのコップ」の中にも、テーブル上にも「空気」は隙間なく満ちているのであり、「空っぽのコップが倒れた」瞬間に、その空気がテーブル上の空気と入れ替わったりすることは有り得ませんよ!
     空っぽのコップの中に花が咲く!忘年会での課長の手品!   二嶋 結


〇   蚊を潰したら付いた血は左手の生命線を伸ばしてくれた

 「蚊を潰したら(左手の掌に)付いた血」が、時間の経過に伴って乾燥して黒くなっている状態を見誤って、「左手の生命線を伸ばしてくれた」と作者が云ったのではなくて、「血は左手の生命線を伸ばしてくれた」としたのは作者一流の洒落た表現なのである。
     マル暴を潰したからとて一課長・内藤剛志の過去は犯人   二嶋 結


〇   境界に生きているからわたしにも隣人にも殺されないヨモギ

 自宅の敷地と隣家の敷地の「境界」に生き生きとして生えている「ヨモギ」!
 作者は、件のヨモギの生き生きとした有様を目にして、「境界に生きているからわたしにも隣人にも殺されないヨモギ」と云ったのであり、この一首もまた、作者一流の洒落た表現なのである!
     境界に置かれているから二嶋が手を出しあぐねてゐる<キリン一番搾り>   二嶋 結


〇   切られてる最中も木は刃を向ける人に日陰を与え続ける

 「最中」は「さいちゅう」と読むのであり、決して決して「最中」と読むのではありません!
     空気銃で狙われながらもウグイスは梅の小枝で歌つてゐた   二嶋 結
     
 
〇   くっきりと枕の跡がついていて今日は丹下左膳で生きる

 寝起きの顔に「くっきりと枕の跡がついて」いるから、「今日は丹下左膳で生きる」と開き直るのは、大河内傳次郎ファンの本作の作者である!
     ワイシャツに合体証拠着けたまま会社に急ぐ「釣りバカ日誌」   二嶋 結


〇   靴下をこたつに入れて温めるわたしはわたしの羽柴秀吉

 作中の固有名詞「羽柴秀吉」は、「木下藤吉郎」もしくは「日吉丸」もしくは「サル」の誤りである。
     東芝の「全自動式洗濯機・開閉タイプ」でサルマタ洗う   二嶋 結


〇   血圧計のボタン押すのを忘れてることを忘れて目を閉じている

 「目を閉じている」という五句目の七音がよく効いていて素晴らしい!
     パソコンの電源ボタンを押し忘れ富士通恨んだ二嶋結よ!   二嶋 結


〇   こっそりと鼻毛が出てると教えたら伸ばしていると強くいわれた

 これもよくある!
 私の郷里では、強情者を「這つても黒豆」と云うが、そんな「這っても黒豆」の私を見て、私の次男は「這ったら黒豆の間違いではないか?」などと、全く失礼千万なことを云うのである!
     「這っても」か「這ったら」なのか判らねど兎にも角にも吾は「黒豆」!   二嶋 結
     にんまりと笑つて猫を視てゐたら猫ににやんわり窘められた!
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  • 2023/01/21 (Sat) 15:29
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