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詩歌句誌面

読解なくして論評あらず。

今週の「朝日俳壇」より(2020/8/30掲載) 暁闇の小田急線の警笛に夢を破られベッドより出づ!  そのかみのギニアのお笑い・サンコンさん!<視力6、0>とはほんまかいな!  莚より湧く虱と蚤に寢付かれず田毎の月を飽かず見にけり!  キスをする構へだけ見せ手を握ることさへさせぬスナックのママ!  掌中に熟せる一顆の無花果の行乞われの飢ゑを潤ほす!

     高山れおな選

○   今朝走る一番電車爆心地  (高松市)島田章平

 首席。
 「原爆投下後数日で走り始めた路面電車に託された希望を75年後の今朝思い遣る」とは、選者・高山れおな氏の寸評である。
 香川県の県庁所在地・高松市(人口は42万人、高松都市圏の人口は84万人)は、太平洋戦争前には市街地に路面電車としての<市内線>が運行されていて、観光路線としての性格と生活路線としての性格を兼ね備えていた為に利用者も多かったが、戦災で破壊され、そのまま再開されることなく運行が廃止されてしまったのである。
 そして、その後に市内を走る路面電車は無いのであるが、それとは別に、「高松琴平電気鉄道」が、「高松築港駅~瓦町駅~岡本駅間を往復する琴平線」と、「瓦町駅~高田駅間を往復する長尾線」、及び、「瓦町駅~原駅間を往復する志度線」との三路線が、市内の目抜き通りを運行させていて、高松市民及び高松都市圏の住民や観光客の利便に供しているのが現状である。
 察するに、掲句中の「一番電車」とは、高松市内を走る電車、即ち「高松電気鉄道」の三路線の中のいずれかの「一番電車」ではないかと思われ、掲句の作者・島田章平さんは、件の高松電気鉄道のいずれかの路線沿いにご邸宅を構えていらっしゃるのではないかとも推測される!
 私・鳥羽散歩は、今年の六月十七日を以て満八十歳になりましたが、察するに、掲句の作者の島田章平さんは、昭和十五年生まれの私と同年配、もしくは、私よりも二、三歳ぐらい高年齢の鰥夫暮らしのご老人かと思われる。
 ところで、この点は、私自身の経験に照らし合わせてみても納得せざるを得ないのでありますが、私たち高年齢者男性は、総じて<早寝早起き>という習慣を持っていて、自宅から間近い所に鉄道線路が在ったりすると、その線路を走る「一番電車」の走行音や警笛などに、毎朝、耳を澄ましている事がよく在るのである。
 察するに、掲句の作者・島田章平さんにも、私同様の<早寝早起き>の習慣があり、広島に原爆が投下されて七十五年目に当る、今年の夏の八月六日も、夜明け頃から既に目覚めて居られ、往来から聴こえて来る「一番電車」の走行音に耳を澄まして居られたものと思われます。
 そして、瀬戸内海を隔てて高松市の対岸に在る、広島市に原爆が投下された後、数日で走り始めた広島の路面電車が広島市の復興に果たした役割や、爆心地の様子などにも思いを馳せられたことでありましょう。
 戸外から聴こえて来る<高松電鉄>の「一番電車」の走行音を耳にしたという、作者ご自身が体験された身近な事柄を契機として、核禁止問題や平和問題にも思いを馳せられる作者・島田章平さんの、<新型コロナウイルス禍>で逼塞して居られる、今年の夏の暮らしぶりをも窺わせる佳作である!
     暁闇の小田急線の警笛に夢を破られベッドより出づ!


○  ひらめきの前の十秒青林檎  (香芝市)土井岳毅

 次席。
 選者・高山氏曰く、「上五中七と青林檎が比喩の関係。どちらが実か虚か読み手次第」と。
 「どちらが実か虚か読み手次第」とのことでありますが、「ひらめき」は勿論、「青林檎」も作者の脳裏の中の出来事であり、両者ともに、「実」と言えば「実」、「虚」と言えば「虚」の関係を成すものでありましょう。

       青林檎分つ一会の山の友   沢聰
       もぐや直ぐ口に泡立つ青林檎   林翔
       朝夕の青林檎すりみとり妻   梶尾黙
       青林檎夜沼の脣を背に感ず   宮武寒々
       青りんご青田青風岩木山   高澤良一
       青林檎旅情慰むべくもなく   深見けん二
       青林檎機嫌の悪しき妻と居る   矢坂祐一
       青林檎人を迎ふる日の多く   木村蕪城
       十六夜の青林檎なれば自閉的   安西篤
       青林檎汝が口紅のいろにじむ   三谷昭
       高潮に余市の浜の青りんご   石原舟月
       山巓は雲吐きつくし青林檎   愛澤豊嗣
       光点は紅点すところ青林檎   香西照雄
       ひた走る夜汽車歯に酸き青林檎   杉本寛
       お岩木に雲又かかる青りんご   高澤良一
       青林檎しんじつ青し刀を入る   山口誓子
       青林檎ひとの夏痩きはまりぬ   石田波郷
       四方に垂れ草の中まで青林檎   古館曹人
       青林檎むいてかしづく父の酔   前田普羅
       青林檎買へりハイデルベルグ駅   岩崎照子
       青林檎昼寝のちさき掌をはなれ   谷野予志
       青林檎の青さ孤絶の山小屋に   橋本多佳子
       青林檎かじる氷河期のおわり   対馬康子
       失恋や片頬赤き青林檎   中尾寿美子
       つぎの世へ転がしてゆく青林檎   大西泰世
       青林檎イブの歯型の明るさよ   仙田洋子
       長旅の疲れ癒せり青林檎   後藤郁子
       背山より雨走りくる青林檎   小林紀代子
       早き瀬に立ちて手渡す青りんご   山本洋子
       洛陽に陽を追ひ落し青林檎   小檜山繁子
       青林檎氷河の裾にひと夜寝て   村上光子
       晩年のいまが入口青林檎   星多希子
       高空に照り合ふ岳や青林檎   長沼冨久子
       アルプスは疾走はじむ青林檎   熊谷愛子
       若人の宴青林檎火口に落つ   津田清子
       吾子の前風が忘れし青林檎   中嶋秀子
       青林檎初恋日記ひらきけり   仙田洋子
       少女等の男言葉や青林檎   穂坂日出子
       青林檎とふほど若き妻でなし   鳥羽散歩
       酸つぱきも齧つてみたき青林檎   鳥羽散歩


○  野分すぎ五等星まで見えしかな  (丹波市)木内龍山

 三席。
 「満天の星。<五等星まで>の具体が面白い」とは、選者・高山氏の寸評。
 「野分」即ち<台風>が過ぎた後の夜空には、正しくも<満天の星>といった感じの天体ショーが展開されますからね!
 ところで、「肉眼で見える星は6等星まで。これは、古代ギリシアの天文学者ヒッパルコスが定めたもので、最も明るい星たちを1等星とし、肉眼でぎりぎり見える最も暗い星たちを6等星として、その間を6段階に分けました。1段階で明るさの差は約2.5倍、1等星は6等星の約100倍の明るさとなります。1等星から6等星までの星の数は全天で8600個。一度に見える星の数は、地平線より上半分の約4300個となる計算となります。実際には地形や建物、雲の状況によって見える星の数はもっと減ります」との事である。
     そのかみのギニアのお笑い・サンコンさん!<視力6、0>とはほんまかいな!


○  枕よりわくみんみんに寝付かれず  (秩父市)猪野幸夫

 四席。
 「ミーンミンミンミンミンミー…」という鳴き声がよく知られている<ミンミン蟬>の鳴き声を寝床の中で聴いていて、「枕よりわくみんみんに根付かれず」と詠んだのであるが、「枕よりわくみんみん」が一句の眼目である。
     莚より湧く虱と蚤に寢付かれず田毎の月を飽かず見にけり!

 
○  朝食のいちじく濡れて皿の上  (岸和田市)大内純子

 五席。
 朝一番に裏庭の木から捥ぎ取って来て、皿の上にのせた無花果!
 その無花果は、朝露に濡れたままの完熟した無花果なのである!
     掌中に熟せる一顆の無花果の行乞われの飢ゑを潤ほす!


○  夕立の構へだけして地の燃ゆる  (高知市)和田和子

 八席。
 「夕立の構へだけして地の燃ゆる」如き黄昏になってしまった、という事はよく在ることでありましょう。
 現に、今日、八月晦日の川崎市多摩区などは、朝八時過ぎに入道雲が湧いて、今直ぐにでも一雨来そうな気配を示していたのであったが、午後二時になった現在も一向に降りそうになく、洗濯物が物干し竿に縛られながらも翩翻と翻っているのである。
     キスをする構へだけ見せ手を握ることさへさせぬスナックのママ!
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卑しくも<詩歌ブログ>を名乗る以上は、イラストやカラー写真で以て読者に取り入ろうとしてはなりません。ましてや、田舎町の安手のレストランで食べた料理のカラー写真で以て読者を幻惑させようとするのは論外です!当ブログは、カラー写真やイラストの類の夾雑物は一切無しの<詩歌ブログ>です。

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